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葬儀や埋葬、人の死に関連する習俗「魂結び」や「魂呼」とは?

20世紀以降、「科学万能」と言われて久しい現代社会であるが、それでもなお、不思議・怪奇・謎とされる事象は世の中に数多く存在する。その代表格であり、何らかの「科学」で存在や因果関係を明確にできないものがある。人間のみならず、動物にもある「心」、「魂」のことだ。

葬儀や埋葬、人の死に関連する習俗「魂結び」や「魂呼」とは?

身体と魂、心

肉体のどこかに「魂」があるから、我々を含む生物全てが生きており、逆に「死ぬ」ということは、「魂」が肉体から何らかの理由で離れてしまい、2度と戻れなくなってしまった状態のことであると考えられる。

そしてそのような魂は天国か地獄、または黄泉の国という、肉体から魂が離れた人=死者の国または住処にとどまることになる。ほとんどの人が戻れない。例外的に、既に亡くなっている自分の身内や恋人などが、どこからともなく現れ、「お前はまだここに来るのは早い!」と言って追い返されたりする場合。または有徳の宗教者や賢者が死神など、死者の国からの使者に導かれて、あちこちを「見学」した後、現世に戻ることなどがある。

また、一旦死んでしまうと、その魂は死者の国に永遠に居続けることになるという考え方ばかりではなく、生前の自分の「行い」の良し悪しに応じて、人間ではなく、動物や虫など、または人間に生まれ変わる場合もあると捉える宗教もある。いずれにせよ、肉体とは違う「魂」が、この世であっても、この世ではないどこかの世界でも存在しているという前提で語られている話であることだけは、間違いないようだ。

魂や心にまつわる怪談ものや心霊ものとは?

現在に至るまで「怪談もの」「心霊もの」のテレビ番組や書籍、あるいはインターネット上の個人ブログなどでよく語られてきたことで、「魂」にまつわる事象の中に、「幽体離脱」「生き霊」など、まだ生きている人間、または生き物の肉体から抜け出した「魂」にまつわるものがある。主に3パターンある。

(1)『源氏物語』に登場する、主人公・光源氏の正妻である葵上(あおいのうえ)を絶命の淵まで追い詰めた六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)の生き霊のように、ある人が、恋しさ・愛しさがつのる人の枕元に現れた。しかも、それに遭遇した人にとっては、必ずしも生き霊となって現れた人物のことを好ましいとは思っていない。むしろ苦手だと、避けているぐらいである。
(2)憎んでいる誰かの枕元に現れ、責め苛んで、その人物を病に追いやってしまった。
(3)自分自身が交通事故または急病で倒れ、意識を失っている最中、病院に担ぎ込まれ、ベッドに寝ている。医師や看護師が懸命の処置をしているそばで、呼び寄せられた家族や恋人が泣きながら自分の体に取りすがり、名前を必死に呼んでいる情景を見下ろしている。それを見ている今の自分は何なんだ…と思った瞬間、自分はベッドに寝ている状況で目が覚めた。「よかった!意識が戻った!」とみんなが驚き、喜ぶ。

こういった話は古くから存在した

特に1と2の事例に関しては、「ストーカー」「悪霊」封じ的なニュアンスで、例えば自分にとって好ましくない人物が「生き霊」となって現れた時は、般若心経を唱えるだとか、腹に力を入れて、腹式呼吸の要領で大きく深呼吸してフーッと息を吐き、それから「喝!」のような大声を出して追い払うといいなどと言われている。寝る前に、魔除け、お清めに効くという粗塩を置いたり、お香を焚くなどの方法もあるらしい。しかしそうした「防御策」のうち、誰かへの恋情または憎悪が昂じた場合、または何の思い当たる節がないにも関わらず、自分の体から勝手に魂が抜け出してしまうことを防ぐおまじないなどは見当たらないようだ。しかしかつての日本には、それが存在していた。
 
例えば『源氏物語』の「葵」のくだりに

   嘆きわび 空に乱るゝわがたまを 結びとゞめよ したがひのつま
   (悲しみに耐えかね、身から抜け出して宙に迷っている私の魂を結び止めて下さい。下交(したがい)の褄(つま)を結んで)

という歌がある。また、『伊勢物語』第110にも、密かに通う女からの、「今晩、あなたが私の夢に現れました」という便りを受け取った男が、

   思いあまり 出(い)でにし魂(たま)のあるならむ 夜深く見えば魂結びせよ
   (あなたのことを思うあまりに、身を抜け出して行った魂があるのだろう。世が更けてから私の魂が見えたのなら、魂結びをして、あなたのところに留めておいてもらいたい)

と歌を返した記述がある。

魂結びとは?

これらは衣の下交(したがい)の褄(つま。着物の端)を結ぶと魂の遊離を止めることができると信じられていたこと、すなわち、「魂結(たまむすび)」と呼ばれる呪術を意味している。そのやり方は、「魂(たま)は見る 主は誰とも知らねども 結びとどめつ下がひの褄」(人魂を見た。その人魂の主は誰か知らないが、迷い出た魂を鎮めるために、私は下交の褄を結びました)という歌を3回唱える。そして男性ならば左、女性ならば右の褄を結ぶ。3日経ってから、その結びを解くというものだ。

これは個人レベルのおまじないに限らず、宮廷儀礼における、玉緒(たまのお)を結ぶ儀式としての「鎮魂(たましずめ)」でも類似のことが行われていた。それは、新嘗祭の前日である陰暦11月の、寅(とら)の日の申(さる)の刻に、天皇・皇后・皇太子などの長寿を祈って行うものだ。しかし元々の考え方としては、天皇・皇后・皇太子など、高位の者の魂の遊離は単なる一個人の問題を超えて、国家全体に災厄をもたらす危険性があると考えられていたからである。果たしてそのおまじないの効果はどうだったのだろうか。

魂呼とは?

「おまじない」とわからず、今日でも我々が行っている行為がある。それは「魂呼(たまよばい)」である。人の臨終、または死の直後に、枕元などでその人の名を呼び返して、蘇らせようとするおまじない、または習俗である。これは先に紹介した3の例で、家族や友人、恋人などが必死の思いで、「神様仏様!どうか危篤状態の〇〇さん、息子/娘/夫/妻/父/母/孫/おじいちゃん/おばあちゃんを助けて!」とその人の名前を連呼する。人目もはばからずに絶叫する。その必死の叫び声が聞こえ、肉体から抜け出した魂がハッ!あれ?と気づいて、自分の肉体に戻る。そして目を開け、息を吹き返すと考えられていたのだ。

大声で叫ぶばかりではなかった魂呼

日本思想史の研究者・佐藤弘夫によると、医療の未発達、迷信俗信が現在の比でなく強かったため、人が死にやすかった前近代までは、人が死んだからといって即、火葬なり土葬なりで埋葬してしまうことはなかった。病気や不慮の事故などで肉体から離れてしまった魂が再び肉体に戻ってくることができるよう、遺体は自然腐敗のプロセスに任せていた。季節にもよるが、1週間か10日ぐらいで遺体は膨張し、変色し、腐敗していく。こうした「諦め」がついた期間を経て、遺体は埋葬されたのである。
 
また、「魂呼」の儀式は、ただ名前を大声で呼ぶばかりではなかった。『魏志倭人伝』(280〜297年頃成立)の「倭人」こと当時の日本人は、亡くなった人物が出ると、10日以上にわたって、喪主は大声で泣き、集まった人々は歌舞飲食を続けたという記述がある。それは、魂が自分の遺体の周りで、楽しそうに歌を歌ったり、踊ったり、おいしそうなものを食べたり、お酒を飲んだりしている自分の知己の者たちを見て、「自分も仲間に入れて!」と、肉体に戻ってくるのを期待してのものだったようだ。

今現在、「魂呼」の意味合いは忘れられ、葬儀の折に親戚一同、友人一同が集まって、酒盛りを始め、高歌放吟をしながら、故人を偲ぶ。または、この葬儀の「おかげ」で、久しぶりに再会する羽目となった友人知人と「積もる話」をするのも、昔ながらの日本の「お葬式」の風景でもあった。

最後に…

「魂」の神秘、すなわち実体がつかめていない状況は1800年前も今も、さほど変わってはいない。強いて「違う」とすれば、「魂結」のおまじないは、着物、それも十二単を身につけることのない人が大半となった現代の我々には、全く廃れたものになっていることぐらいだ。それ以外のことは「おまじない」ではなく、「本能」「習慣」として、我々は今なお続けている。

だが、これから1000年、2000年経った時、我々人間は「魂」の仕組みや謎を解明できているだろうか。そしてもし解明できたとしたら、「葬儀」「お墓」はどうなってしまうのか。魂の神秘性がなくなってしまったことで、簡略化・単純化されてしまうのか。それともそれが明らかになったからこそ、今以上に豪勢で凝ったものになっているのだろうか。

参考文献

■『新訂 魏志倭人伝・後漢書倭伝・宋書倭国伝・隋書倭国伝 中国正史日本伝 1』1951年 岩波書店
■『岩波古語辞典 補訂版』1974/1990/2014年 岩波書店
■『角川古語大辞典 第4巻』1994年 角川書店 
■『死者のゆくえ』2008年 岩田書院
■『新潮日本古典集成 源氏物語 2』2014年 新潮社
■『新潮日本古典集成 伊勢物語』2017年 新潮社

ライター

鳥飼かおる

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