最近孤独死に関する報道を目にすることが多くなった。悲惨な話しではあるが、減少するどころか増加傾向であると言う。
筆者はこの報道に接する度に、どうしてもある人を思い出してしまう。ある人とは、一代で財を築き乍ら未婚のまま孤独死してしまった男性のことだ。
事業で成功したが家族はいなかった
その男性を仮にI氏としておく。I氏は享年78歳。筆者にとっては、税理士事務所に勤務していた際に非常にお世話になった方だった。
本人の話しだと、数えで6歳の頃に両親に捨てられ、その直後に顔見知りの大工の棟梁に拾われ、以後丁稚として住み込みで働いていた。成人してから独立し、建設会社を設立。腕の良さと生来の真面目さ、親切な対応が功を奏した結果、会社は順調に業績を伸ばしていったと同時に、本人もかなりの財を築くことができたのだった。しかし、I氏にはその生い立ちから家族が居なかった。I氏は筆者と会うと必ず「俺の遺産はアンタにやるよ。いつも世話になっているからな」と言っていたが、筆者自身は冗談として受け取ってはいたものの、妙に引っ掛かる気がしていた。
突然死すると、多くの場合その財産は国のものとなる
そして、I氏は突然の心臓発作で亡くなったのだ。死後数日経過してから自身の建設会社の従業員に、I氏の自宅の浴室で倒れていたところを発見された。発見後に事件性は無いものと警察に判断されたが、大騒ぎとなった。この場合一番問題なのは、I氏が所有していた財産は、最終的にどうなるのかということだ。
I氏の場合を例に挙げて簡単に解説する。結論を言うと、I氏の財産は全て国のものとなったのだ。手続きとしては、家庭裁判所が相続財産管理人を選任し、その旨を官報に公告して相続人に名乗り出るよう促す。その後、一定期間を経過しても名乗りでなかった場合、相続人が存在しないことが確定する。確定後、家庭裁判所の決定により、当該相続財産は国庫に帰属、つまり国のものとなる。
特別縁故者(特定の人)を指定して相続することも可能。ただし遺言書が必要。
I氏のような状況を解決するには、特別縁故者(生前非常に世話になった方等)を家庭裁判所に申請し、認可されれば特別縁故者に相続が可能となる。しかし、認可されるのは困難な場合が多いので注意が必要となるだろう。他には、被相続人に遺言書を作成して貰えば良い。できれば公正証書遺言が最も望ましいが、一定の要件を満たしていれば、直筆の遺言書でも法的に有効となる。遺言書に「某氏に全財産を相続させる」と記入すれば解決だ。
孤独死そのものを減少させれば、I氏のような問題も無くなってくるものと思われるが、そう簡単には行かないのが現状なのだろう。財産は築けても、家族を手に入れられず結局は財産を残せなかったI氏。また、家族を手に入れても問題ばかりで、築いた財産のせいで家族そのものが崩壊した例も見てきた。筆者としては、財産の有無は兎も角として、少しでも家族全員が安心できる環境にしてから最後を迎えるようにしたいと考えている。