守秘義務の問題もあるので、詳細を綴ることができないのだが、筆者が税理士事務所に勤務していた時のあるご家族ともう一方のご家族に関する相続を絡めた終活について綴ってみたい。あるご家族をA家とする。もう一方のご家族をB家とする。
ともに資産家だったAとB
A家はかなりの資産家だ。ご主人の年収は二桁億。国内外に数件の別荘を所有している。
A家の家族構成は、ご主人とその配偶者、息子さんご夫婦、そしてお孫さんが二人だ。
B家も資産家だ。ご主人の年収は数億。別荘は所有していないが、超高級車を複数所有、更に飛行機の免許を所持し、国内で遊覧飛行を行っている。家族構成はA家と同じだった。
本人だけでなく家族全員で真剣に向き合った相続税・贈与税対策
ある日、A家のご主人から相続に関して相談に乗って欲しいと依頼があり、日程を調整してA家のご自宅を訪問した。A家のご主人曰く、自分はまだ大丈夫だと思うが、相続税について対策を練っておきたいとのこと。筆者はその際に具体的な対策を資料と共に説明し、数年かけて対策を進めて行く旨ご主人の了承を得た。その直後少々驚いたことが。
同席していた息子さんから、家族全員に概略でもいいので相続税と贈与税についての講義の要請があったからだ。後日日程を調整し、上司と筆者(講師は上司で筆者は資料作成とサポート)でA家において相続税・贈与税の講義を開催した。評判は非常に好評で、特にA家の息子さんご夫婦から感謝されると共に、それなりの額の謝礼金まで頂いてしまった。
それから暫くして、A家のご主人はお亡くなりになった。しかし、事前に対策を済ませていたことにより全てが恙なく進み円満解決できた。この場合、ご家族全員が終活、特に相続税・贈与税について並々ならぬ関心を抱き、貪欲に知識を得ようとしていた。
かと言って、脱税等の違法行為をしてまで利益を追求せず、あくまでも法の範囲内においての節税を目指していたことは、筆者としても大変感銘を受けた覚えがある。そしてご家族全員が目的意識を共有しつつ対策を練っていたことが好結果を生んだのだ。
遺言書さえあれば問題ないという思い込み
次はB家だ。B家のご主人も相続税については若干の対応をしていたようだった。だが、結果はA家とは正反対に近いものだった。B家のご主人は、自筆証書遺言を記入してさえいれば、全て事足りると考えていたようだ。
と言うのは、B家のご主人が亡くなり、自筆証書遺言が弁護士立ち合いのもと公開され、その旨が遺言書に記入されていたからだった。しかしである。そこで大きな問題が発覚してしまった。遺言書に日付が入っていなかったのだ。
B家のご主人は生前、筆者に弁護士と相談しつつ自筆証書遺言を作成すると言っていたが、何と弁護士も詳細は知らなかったのだ。ご主人の勇み足だったのか否か、今となっては確認のしようがないが、兎に角極めて重大な錯誤だ。
弁護士から、当該遺言書は日付が無いので法的要件を満たしておらず、よって法的効力は無効である旨の説明があった。他に遺言書は無いかどうか探すことになったが、結局他の遺言書は何もなかった。
その後の結果は惨憺たるもので、当初は法定相続分にて遺産分割協議が進んでいたが、途中で様々な要因が絡み裁判沙汰になり、大揉めに揉めたのだった。
もうお分かりだと思うが、B家はご主人だけではなく他の家族も問題の解決、対策を練ることをせず、独断と思い込みにて行動したことで、最悪の結果を招いた。
あなたはどちらを望むか
A家とB家の件は、筆者がかつて経験したことだ。
事前に確りとした対応をしたかしなかったかで結果は分かれてしまう。
どのような結果にしたいか、残される者達の為だけではなく、自分自身がいずれ迎えることになる最後の日を心安らかにするために考えておくべきではないだろうか。