お葬式や法事などでお坊さんが用いている木魚や太鼓、またお寺の境内に設置されている梵鐘(ぼんしょう)などの「音の出る仏具」は、総称して「梵音具(ぼんおんぐ/ぼんのんぐ)」と呼ばれている。
中には遺骨で作られる梵音具もある!
日本で使われている梵音具は皆、木製や金属製など普通の一般的な楽器の材料で作られているものがほとんどである。
しかし、海外では驚いた事にこれらが故人の「遺骨」で作られている場合があり、現在でも儀式などで使用されているという。
今回はこれらの「音の出る仏具」の種類や使われる意味などについて調べてみた。
「合図」に用いるための梵音具
【梵鐘(ぼんしょう)】
寺院の境内で、主に鐘楼に吊るされて設置される。童謡「夕焼け小焼け」のお寺の鐘が有名。現在では近所からの苦情などもあり、「除夜の鐘」などの際にしか突かない寺も増えているが、梵鐘の音を聞くことで功徳があるとされ、本来は法要が行われる事を人々に予告したり、時刻を知らせる事に用いられてきた。
【半鐘(はんしょう)】
小型の釣鐘。近年まで主に火の見櫓に設置され、火事の発生時に消防団を招集したり、住民への危険を知らせるために使用されてきたが、元は寺で修行する僧侶に時間を知らせるための道具である。
【魚板(ぎょばん)】
玉を咥えた魚の形をした道具で、板状もしくは鼓型になっており、寺の者に時刻や法要の開始などを知らせるために打ち鳴らして使用する。木魚(もくぎょ)の元になった道具である。
「法要」に用いるための梵音具
【磬子 (きんす/けいす)】
銅製もしくは青銅製の鉢の形をした道具で「磬(けい)」とも呼ばれ、主に寺院用で6寸以上のものをいう。(概ね五寸未満の物は「鈴」と呼ぶ)。専用の布団の上に置かれ、法要の際は縁を棒で打ち鳴らして用いる。
【錫杖(しゃくじょう)】
木製の杖に金属の大輪(錫)を付け、そこに小さな輪を6個もしくは12個通して鳴るようにした道具。法会に用いるほか、修行者がこれを鳴らしながら歩くことにより獣や虫を追い払ったり、音により煩悩を払い、悟りに近づけるとされる。お地蔵様が右手に持っているのがこの錫杖である。
【木魚】
読経の際にリズムをとるのに用いる。また、魚は目を閉じない生き物である事から、「目を覚ます」意味合いが込められている。
【法螺(ほら)】
南洋に生息するホラガイの貝殻に金属製もしくは木製の拭き口を付けた道具。修験道の立螺作法(りゅうらさほう)や山中にいる仲間同士の合図、また法要の際、堂の中の悪鬼を追い払うものとしても用いる。
【鐃鉢(にょうはち/にょうはつ)】
金属製のシンバルのような道具。法会の際、打ち鳴らして使用する。
「礼拝」に用いるための梵音具
【鰐口(わにぐち)】
金属の皿を二つ合わせたような形をしており、神社仏閣の正面に吊るされ、縄や鈴尾で打って使用する。音によって神仏に呼びかけ手コンタクトを取り、願いを聞いてもらうために用いる。
チベットにある人骨を用いた梵音具
【カンリン】
風葬などで中が空洞になった死者の大腿骨を加工した笛。故人が悪人だった場合は骨の中には「善」が、善人だった場合は骨の中に「悪」が残るとされ、悪人の骨で作ったカンリンを吹き鳴らす事で死者に「善なるもの」を施すことができるとされるほか、密教の儀式の際にはこの笛を吹き鳴らしてこの世に彷徨う悪鬼を呼び寄せ、施しを行うのに用いる。
【ダマル】
死者の頭蓋骨を胴に用い、両側に紐に通した弾などを吊るした振鼓(ふりつづみ)で、左右に振って音を鳴らす。チベットの宗教儀礼の際に使われ、日本の玩具「でんでん太鼓」の原型といわれている。
梵音具は「人間でないもの」に聞かせるための道具
梵音具の役目は、人間に対して何か合図をしたり、告知をしたりするのに用いるほか、神や仏、冥界に住む鬼や鬼神など、異世界の「人間でないもの」に働きかける事でもある。
人間とは遠い存在であるそれらに祈り、あるいは追い払い、呼び寄せる力が梵音具には必要なのである。
そのため、仏教を厚く信仰する国であるチベットでは、よりそのような「大いなる存在」に対して強く働きかけるため、故人の遺骨を梵音具に用いるという発想が生まれたのだ。
現在の日本で用いられる仏具にはそのような習慣は見られないが、大本の考え方はチベットで用いられるものと同じところにある。
法事や法要などの際に「音の出る仏具」を見かけたら、その音が何者に向かって発せられるものなのか、考えてみると良いかもしれない。