京都の東山にある六道珍皇寺(ろくどうちんのうじ)には、ある人物が地獄への通り道として使用していたという井戸が残っている。その人物は、一体誰だったのか、どんな目的で地獄に行ったのか。
六道珍皇寺(ろくどうちんのうじ)とは
京都では六道さんの名で親しまれ、お盆の精霊迎えに参拝する寺として有名六道珍皇寺。六道の分岐点、この世とあの世の境目が古来より六道珍皇寺のあたりだと言われ、冥界の入り口と信じられてきた。そしてこの伝説には、百人一首に登場する小野篁(おののたかむら)が深く関わっているという。
小野篁(おののたかむら)とは
小野篁は平安時代、宮廷で多くの帝に仕えた優秀な官吏である。頭脳明快で博識、188cmという高身長の持ち主であり、ほぼ等身大の像が六道珍皇寺にある。そして寺には、彼に関する、謎めいた伝説が残っている。なんと小野篁は、夜な夜な寺にある井戸を通って、冥界に行き閻魔大王の仕事を手伝っていたとう。昼は宮廷、夜は閻魔大王庁で働く、いわゆる副業を行っていたのである。
小野篁に助けられた人物
彼のエピソードとして、何人もの人物を蘇らせた話が残っている。例えば「今昔物語」には、平安時代の官僚であった藤原良相(ふじわらのよしみ)が小野篁の頼みにより蘇った話が残っている。篁には、過去に島流しにあった際に良相に親身になってもらい助けられた経験があった。良相が病で亡くなり、閻魔大王のところに連れてこられた時、閻魔大王の冥官の中に篁がいた。彼は過去の恩から閻魔大王に良相を生き返らせてもらえるように頼み込んだ。その後、篁と良相がこの世に戻り、話をした際に、あの世で見た事を秘密にするように頼んだようだが、いつしかまわりに知られるようになり、恐れられる存在になったとか。
紫式部も助けられた
源氏物語で有名な紫式部も、彼に助けられた人物の一人である。紫式部は、ふしだらな絵空事で多くの人々を惑わせたとして、死後は地獄行きになったといわれている。そして、小野篁は彼女の地獄行きを救うため、閻魔大王に口添えをしたそうである。京都の堀川北大路を下っていった道沿いに紫式部の墓がある。紫式部墓所と彫られた石碑があり、紫式部の墓石がある。そして、この場所にはもう一つ、小野篁の墓も建てられているのである。近くに墓があるからといって、夫婦や恋人であったわけではない。紫式部が生まれたのは小野篁が没してから約120年後であり、彼らに接点はない。源氏物語を愛読していた人たちは。彼女の地獄行きを心苦しく思い、小野篁のお墓を紫式部の墓のとなりに移動させ、彼女を救って欲しいと祈りを捧げるようになった。これも、小野篁が閻魔大王の裁判の補佐をしていた事が後世に語り継がれていたからであろう。
最後に…
小野篁が閻魔大王の所に向かう際に取った伝説の井戸「冥土(冥途)通いの井戸」は、本堂右端の格子窓から覗くことができるが、間近に見たい際はぜひ特別拝観の時に行っていただきたい。その他、六道珍皇寺には、小野篁作の閻魔大王坐像がある閻魔堂や、古来よりその音が冥途にまで届くと言われる迎え鐘などがある。そして、2011年に寺の旧境内地より、冥土からの帰路の出口と考えられる「黄泉がえりの井戸」が発見された。こちらも合わせて拝観したいところである。