知人の配偶者から相続税に関する質問を受けた。内容は、税理士の書面添付制度(税理士法第30条他)に基づく書面を相続税の申告時に添付しておけば、税務署の税務調査を受けなくて済むと聞いたが本当かということだった。結論から言うと、書面添付していても税務調査そのものを免れることはできない。ただ、税務調査が実施される可能性は低くなるということだ。
税理士の書面添付制度とは
税理士書面添付制度とは、税理士が税務署の代理として納税者に対して法人税・所得税・相続税・贈与税・消費税等の税務において、税務調査で指摘される可能性がある案件を調査し、問題がなければ若しくは問題が解決すれば、その旨を税理士法に規定する書面にして確定申告時に申告書に当該書面を添付し、税務署に提出する制度だ。当該書面は、税理士並びに税理士法人のみが作成できる。
税理士の書面添付制度を利用しなかった場合
当該書面を添付しなかった場合はどうなるかというと、税務調査時の手続きが若干変わってくる。相続税について例に挙げると、税務署がある申告について疑義が発生した場合、担当官から納税者に直接連絡がくるのだ。税理士についてもほぼ同時に連絡がきて日程を調整し、税務調査が実施されることになる。当該書面を添付した場合は、最初に税務署から税理士に申告について内容に疑義があるため詳細を聞く旨連絡がくる。これを「意見の聴収」という。税務署が税理士への意見の聴収によって、申告の内容について疑義が解消すれば税務調査の必要がなくなるため、税務調査は実施されなくなる。しかし、意見の聴収を以てしても疑義が解消しなければ、当然税務調査が実施されることになる。つまり、税務署が税理士に対して申告の内容について問題ありとした質問をして、問題が解消すれば税務調査はなくなり、解消しなければ従来通り実施される。税務調査自体が無くなることはないのだ。
税理士の書面添付制度のメリットとデメリット
この税理士書面添付制度だが、税務署側のメリットが多い反面、納税者へのメリットは少ない。具体的には前述のとおり税務調査実施の可能性が低くなるのと、税務調査が実施された場合には、罰金に相当する加算税・重加算税が課税されないことだ。デメリットとしては、税理士に対して支払う報酬が高額になることだ。何故かというと、書面を作成すること自体が税理士にとって手間がかかるため、大きな負担となるからだ。また、税理士法に則って正確に作成し、重い責任を課されるため作成を嫌う税理士も多いので注意が必要となる。当然税理士に負担が多いとなれば、それと比例して納税者の負担も増える。資料を余計に揃えなくてはならない他、税理士自身から調査を受けるようなものなので、精神的負担も増える。
税理士の書面添付制度を利用するかどうかはケースバイケース
相続税の申告については、書面を添付した方が安全性は高まる。しかし、負担も増えることになるが、税理士に依頼する場合は慎重に判断して欲しい。