コロナ禍の影響で、小中高校そして大学が長期間にわたって休校するという前代未聞の事態になった今年。特に大学入試では、長年行われてきた大学入試センター試験に代わり、大学入学共通テストが初めて実施される。コロナに加え、大きな制度の変化に、不安を感じている受験生も多いことだろう。中学入試や高校入試を迎える受験生にとっても、勉強の遅れに加え、学校見学の機会が限定されるなど、イレギュラーな中で受験を迎えることになる。今回は中学受験の入試で出題された「葬儀」や「死」をテーマにした問題について紹介する。
葬儀シーンから始まる、江國香織の「弟」
中学入試でよく出題される作家の一人に、江國香織氏がいる。短編集「すいかの匂い」「つめたいよるに」などから、多くの学校で出題されている。中でも「すいかの匂い」の中の一編「弟」は、弟の葬儀に参列した姉の物語だ。
姉の年齢は30歳前後。火葬場から家に戻り、ひととき喪服を脱ぎ、仰向けに寝転がって過去を回想するシーンから始まる。それは弟との葬儀ごっこの思い出だ。
祖母の葬儀中に、姉と弟で葬儀ごっこ
弟が小学校に入学した年の夏、祖母が亡くなった。葬儀が粛々と進む中、時間を持て余す姉と弟は葬式ごっこを思いつく。
片方が遺族役となって、故人役に取りすがって泣く。次に遺族役は焼き場係となり、最後は火葬場の火となり、布団とともに寝ている故人役に「ゴーッ」と言いながら覆いかぶさる。それを何度も繰り返すうちに、ハイテンションになり、笑いが堪えられなく様子も描写されている。
いじめっ子の葬儀ごっこも
やがて、お葬式ごっこはエスカレートし、ある日、姉は弟をいじめていた子どもたちを思い浮かべ、順番に荼毘に伏すことを提案する。最初は喜んで火の役をやっていた弟だったが、やがて泣き出し、かわいそうだと言い出す。
お葬式ごっこというショッキングな遊びが描かれているが、いじめっ子をかわいそうに思う弟の優しさ、そんな弟を歯痒く感じながらも思いやる姉の心理がにじみ出ている作品だ。
愛犬の死が描かれた「デューク」
「つめたいよるに」に納められた「デューク」という作品も入試問題に出題されている。この作品では亡くなったのは、21歳女性の主人公の愛犬デューク。子犬の頃から可愛がり、最期は老衰で主人公の膝の上で撫でられながら息を引き取った。
亡くなった次の日、主人公はアルバイトに向かう電車の中でも涙が止まらない。そんな時に席を譲ってくれたのは、深い目の色をしたハンサムな少年だった。その少年と1日を過ごし、クリスマスソングが流れる物語のラストで、主人公の悲しみは見事に昇華される。
葬儀や死がモチーフになったこれらの物語が、受験生の心にどう響くのか、興味深いところだ。
参考資料
■「すいかの匂い」江國香織 2000年 新潮文庫
■「つめたいよるに」江國香織 2000年 新潮文庫
■「新訂版 中学入試にでる名作100」坂元純 監修/日能研 2007年 講談社