国際化する現代。世界中から多くの人が日本に働きに来ている。イスラム教徒(ムスリム)も例外ではない。イスラムは中東や北アフリカの宗教というイメージがあるかもしれない。しかし日本に近い国ではフィリピン南部やマレーシア、シンガポールなどに多くのムスリムがおり、中でもインドネシアは世界最大のムスリムの国である。これらの国から多くの人が日本に滞在、あるいは移住している。また少数ながら日本人ムスリムもいる。もし親しくなった人がムスリムで、お別れの時が訪れた時、私たちはどのように行動すればよいのだろうか。
イスラム教の死生観
イスラムの聖典「コーラン」には「魂は皆、死を体験しなければならない」「各人の死ぬ時間は予め正確に定められている」という言葉がある。これは「定命」という考え方で、全ての人間の運命はあらかじめ神によって決められているというもの。定命があるからこそ、ムスリムは厳しい戒律を守りつつ何事にも全力で生きることができるのだという。
また、死は終わりではなく、魂が辿るべき道の通過点であると考えられている。亡くなったムスリムは最後の審判の日まで眠りにつき、最後の審判を迎えれば復活して天国へ行くとされている。復活には体が必要であることから、火葬は禁止。土葬が基本である。日本にも、ムスリムのための土葬可能な墓地が複数ある。
イスラム教の葬儀の流れや注意事項
イスラムの葬儀は礼拝→埋葬→葬式の順で行われる。ムスリムが亡くなった時は、地域のイスラム共同体のメンバー全員で送り出す。一方で、たとえ親族であっても非ムスリムの場合には礼拝に参列しない。非ムスリムの友人・知人・親戚などは礼拝をモスクの後方から見守るのみとなる。
ご遺体は礼拝堂であるモスクに運ばれ、聖地メッカの方を向くように安置される。聖職者であるイマームが礼拝を執り行い、ムスリムの男性が儀式に参加する。礼拝はアラビア語の祈りを唱え、コーランを読むシンプルなものである。
礼拝が済むと埋葬に移る。棺を運ぶなど、埋葬で求められる役割もムスリムの男性のみに限られる。非ムスリムは少し離れたところから見送る。
埋葬を終えると改めてモスクで葬式を催す。この葬式には非ムスリムも参加できる。しかし、男女は同席しない。女性はモスク後方か、故人の家などに集まって過ごす。
イスラム教の葬儀に参列するときの服装や香典などのマナー
ムスリムの友人や職場関係者の葬儀がある場合には、喪服やダークスーツを着用する。香典は持参しても構わないが、香典の習慣はないので断られる場合もある。前述したように、礼拝・埋葬・葬式のうち、礼拝と埋葬の間は後方で静かに見守る。イスラムでは死は終わりではないと考えられているため、あまり悲しみの感情を表に出すことは好ましくないとされる。故人の思い出に感謝しながら、心穏やかに送り出したい。
いかがだっただろうか。イスラムの葬儀は仏教や神道・キリスト教の葬儀とは勝手が違うが、大切なのは故人を思いやる気持ちである。作法は遺族や関係者に確認して、違いを尊重して関わりたい。