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ユング派心理学者のアーノルド・ミンデルが提唱する「コーマワーク」とは

昏睡状態・植物状態の患者の意識はどうなっているのだろうか。一生意識が戻らないと宣告された人たち。彼らは本当に意識がないのか。ユング派心理学者 アーノルドミンデルはこれに異を唱え、生死の境で足を止めている彼らの意識的なメッセージを受け止め解放させるワークを開発した。それが「コーマワーク」である。


コーマワークとは

コーマ(coma)とは生命の危機によって陥る昏睡状態、植物状態を指す。意識が混濁しているとされる患者は、うなり声や喘ぎ声、眼球運動などを行うことがあるが、医学的には無意味な生理的反応だとされる。現代医学はこうしたうなり声などを意味ある発語とは認めず、身体のかすかな動きは筋肉の不随意運動反応に過ぎないと解釈する。昏睡・植物状態の人に寄り添っている家族が「かすかに笑った」などと言うことがあるが、医師はそうであってほしいという思うあまりそう見えるだけだと切り捨てる。しかし、ミンデルが創設したプロセス指向心理学(Process-Oriented Physiology =POP)ではそれらすべてのことに意味があるし、患者からのメッセージと考える。この理論を元に患者とのコミュニケーションを図るのがコーマワークである。


具体的にコーマワークは何をするか

ミンデルは患者のうめき声に規則性を読み取って同調したり、筋肉の微妙な反応に呼応することで対話は実現できると提唱した。患者に寄り添い、根気よく観察していると、呼吸のペースが変化したり、目の色合いや口の微妙な反応を示すことがある。あまりに微弱な兆候であるため、訓練されたセラピストでなければ捉えることは難しい。セラピストは患者に「私もそれを見ている」「私もそれが聞こえる」など同調する言葉を投げかける。これによって双方の絆が強くなる。患者にとっては自分とコミットしようとしてくれているのだと理解した時、より大きな反応をすることがある。コミュニケーションを続けてその方向性が間違っていなければ、つまり患者にコミットする意思が伝わるなら、必ず何らかの反応があるとミンデルは断言する。


コーマワークは自己決定を手助けすることが目的

対話ができるからといってその後も日常会話を延々とするわけではない。ミンデルによると昏睡状態における患者の意識は「変性意識状態」となっており、我々の生活世界とはシンクロしていない。常に夢を見ている状態と似ている。ある患者にコーマワークを実践していたミンデルは、患者の意識世界には船が止まっており、乗船するべきか迷っていることがわかった。ミンデルはその船に乗るか乗らないか、対話によって逡巡している本人に決めさせた。そして患者は「船」に乗ることを決めた。その30分後、患者はまもなく息をひきとったという。コーマワークでは大抵の場合、能動的な選択(乗る、歩く、登るなど)は彼岸への旅立ちを意味するようだ。ミンデルは、人間は最後の選択を自分で選べるのだと主張し、コーマワークはその手伝いなのだとする。

このケースからもわかるようにコーマワークは「セラピストが昏睡状態から意識を取り戻させる」技術ではなく、患者本人に生死の選択を自己決定できるように導くターミナルケアとしての技術であるようだ。ミンデルは人間は死ぬ間際において生きるか死ぬかの最終決定を自分で選べるよう導くべきだとする。昏睡・植物状態の患者の生死は、意思がないと見られる以上は最終的には周囲に委ねられるわけだが、コーマワークによって「死の自己決定権」の議論に一石を投じることになるかもしれない。


心と脳を同一とするか否か

昏睡状態、脳に損傷をきたした状態などでも変性意識状態として意識は活動しており、対話も可能になる。ミンデルのこの主張は現代医学では荒唐無稽とされるだろう。心と脳は同一であるとする見方が大勢を占めているからだ。しかしいわゆる「心脳問題」は最終的な決着をみていない。心脳同一論から抜け出せば、ミンデルの主張はそれほどおかしい話ではない。ミンデルは脳をテレビ、心をテレビ局とする例えで説明している。テレビの故障は送信者が機能していても、音や映像を得られない状態である。これが正しければ脳障害と昏睡状態の間に単純な関連性はないということができる。

では、より深刻な脳死判定をされた人ならどうだろう。脳波検査は電極を頭皮の上に当てるだけに過ぎず、脳に直接あてるわけではないことはあまり知られていない。意識があったとしても、ミンデルの症例のような極めて微弱なものであった場合、頭皮にまで到達してないこともありうるのだ。脳死者に意識はあると思われるデータは少なくないのである。


植物状態から生還した人の証言によると…

植物状態から生還した人の証言によると脳の損傷から回復しつつあり、変性意識状態(つまり夢を見ているような状態)になっていたが、医師の口から「病気」「昏睡状態」といったネガティブな言葉を投げかけられ、意識が再び混濁したという。彼らには意識があり、他者の声に非常に敏感である可能性があるのだ。脳にいかなる損傷があったとしても、どうせわからないと思って配慮に欠ける言葉を口にするべきではない。心脳同一論から見た昏睡・植物状態、脳死患者はモノに過ぎないが、同一論から脱却した時、そこにいるのは何も変わらない大切な人の姿である。


コーマワークの可能性

コーマワークは昏睡状態の患者の意識を我々の日常世界に呼び戻す技術ではない。変性意識状態にある患者の意識を「魂」を解放する手助けである。現状ではコーマワークがどこまで妥当性を持ちうるかは未知数である。ミンデルは多くの症例を挙げてはいるが、ユング・フロイトらを起源とする深層心理学は海外では疑似科学として批判されており、コーマワークを許可する病院は少ないと思われる。こうした状況で医療的に有意なエビデンスを満たしているとは思えない。

しかし昏睡状態の人とのコミュニケーションは魅力的な試みとはいえないか。昏睡状態に陥った家族のそばに寄り添い、心電図とにらめっこしたあげく、電波が水平になったことがお別れの合図では悲しすぎはしないか。それよりも対話を通じて旅立ちを見送ることができると考えられるなら、介護の意欲も上がるだろう。コーマワークの知識を身につけ、普段から身近な人の反応の特徴を把握しておくことは無駄ではないと思うがどうであろうか。


参考資料

■アーノルド・ミンデル著/藤見幸雄訳「昏睡状態の人と対話する―プロセス指向心理学の新たな試み」NHKブックス(2002)
■藤見幸雄・諸富祥彦編著「プロセス指向心理学入門」春秋社(2001)


ライター 渡邉 昇
がんばれ朋之!18歳―植物状態からの生還「265日の記録」

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