我が家の居間の棚の上に、ちんまりと納まっている一つの骨壷があります。金の刺繍がほどこされたカバーに覆われたその中身は、享年6歳だった猫の遺骨。とにかく可愛がっていました。私達夫婦の娘同然でした。それがある日の交通事故で、突然天に召されてしまったのです。
人間と違ってペットには、決まった葬儀の様式はありません。全ては飼い主の胸三寸。昔は庭に埋めて終りでしたが、今の都市部では庭のない生活者も当然多いので、ペットの犬や猫が死んでしまった場合、現在は火葬が一般的であるといいます。
法的には物と同じ扱いなのでどう埋葬してもよく、あとは自治体のルールに従うだけ。私達の場合、市の火葬場が当日空いていなかったので、電話帳で探したペットの火葬をしてくれるお寺にお世話になりました。車にはねられた遺体は、そのまま置いておくにはあまりにもかわいそうな状態だったので、一刻も早く火葬してやりたかったのです。
連れていったお寺で火葬を執り行いました
妻と車でそのお寺に着くと、母屋から住職の奥さんと思しき女性が出てきました。人間の葬儀なら、黒いスーツに白手袋のスタッフが出迎えてくれるところですが、普段着にサンダル履きの奥さんが、さあこっちに運んでください、というざっくばらんな感じ。
焼き場に案内され、遺体を横たえる。そして、一緒に焼いてもらうつもりで持ってきた品々にチェックが入る…やっぱり燃えにくいものはダメでした。では最後のお別れを、と奥さんが一歩下がる。人に見られていようが、もう恥も外聞もなく、泣き崩れて遺体にすがって声をかける。この辺りは人間の葬儀と一緒です。
では、そろそろ…と促され、愛猫が小振りな『部屋』に入っていくのを見送りました。なんとも、簡単なものです。人間の葬儀に比べて、なんの手続きもなく、形式ばった事もなく、あとは惚けたように待合室で焼き上がるのを待つだけ。物悲しいBGMが控えめな音量で流れていました。韓流ドラマ、『冬のソナタ』のテーマソングが延々繰り返し…合っているような、合っていないような。たぶんここの奥さんの趣味なんだろうな、と思った事を覚えています。
そして、骨壷を抱いて帰路につきました。これで全て終了だ。しかし中にはお骨を持って帰らない人もいるとのこと。お寺で共同供養、埋葬というパターン。さすがにそれは出来ませんでした。お骨まで手放すには、まだ未練があり過ぎて。私達がいずれ死んでしまったら、この子のお骨はどうなるのだろうと。
ペットも家族です
あれからもう7年。死んだ子の姉猫がもう15歳…そろそろ覚悟しておいた方がよい歳です。
今ではペットの葬儀を取り扱う業者も増えていて、多様なニーズに応えてくれる時代に。ペット専用の霊園に個別のお墓があったり、中にはペットと同じお墓に入る人だっているといいます。昔なら考えられないことです。ずっと一緒にいたいという気持ちは正直よくわかりますが…なんかご先祖様に怒られたりはしないのでしょうか。
最後に、私の知人女性の話をひとつ。彼女は可愛がっていた愛犬が死んでしまった時、どうしてもそれを受け入れることが出来ませんでした。そんな彼女がとった行動とは、愛犬の体がすっぽり入る大きな発砲スチロールと、大量のドライアイスを購入。あとはお分かりいただけるかとおもいます。彼女は何日も何日も、遺体と一緒に寝ていたといいます。家族に説得されてようやく埋葬したそうですが、それほど共に暮らしてきた愛犬の死は、大切な人が亡くなることと同様の失望感があるようです。
ペットも家族です。葬儀、埋葬も愛あればのこと。人となんら変わることはありません。皆さんは愛するペットの葬儀を改めて考えてみませんか?