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「江戸時代に政治的敗北を喫した仏教」ーー当時の庶民と仏教の関係

江戸・徳川時代の仏教が語られることは多くない。仏教伝来、崇仏論争、大仏建立、密教伝来、鎌倉新仏教といったセンセーショナルな出来事が江戸時代にはなく、また、江戸仏教を「葬式仏教」に堕落したとみる向きもある。

今日、仏教といえば葬式であろう。いわゆる「葬式仏教」の原型は鎌倉時代にまで遡ることができるが、檀家制度など現代に直結する葬式仏教の形式は江戸時代に確立された。それ故、江戸仏教は本来の仏教でないと批判されることが多い。しかしそれは歴史を鳥瞰するにおいて、ある視点が抜けているともいえる。それは「庶民・民衆」からの視点である。

「江戸時代に政治的敗北を喫した仏教」ーー当時の庶民と仏教の関係

仏教の政治的敗北に至るまでの経緯

「平家物語」には白河法皇(1053~1129)が「賀茂河の水、双六の賽、山法師、是ぞわが心にかなわぬもの」と嘆いたという逸話がある。山法師とは比叡山延暦寺のいわゆる「僧兵」のことである。僧兵が神輿を担ぎ上げ実力行使に訴える「強訴」は、朝廷といえど容易に抗しうるものではなく、神意を楯に好き放題暴れ回っていた。比叡山を中心とした仏教勢力は軍事力を備えた政治集団であった。

織田信長と豊臣秀吉によって弱体化した仏教

この仏教勢力に業を煮やした織田信長(1534~82)は比叡山焼き討ちを敢行し(1571年)、本願寺の一向一揆を鎮めた(1580年)。
次いで豊臣秀吉(1537~98)が政権に寄り添わない日蓮宗 不受不施派を迫害し、徳川家康(1543~1616)は依然として巨大な勢力を持つ本願寺を東西に分裂させ弱体化に成功した。

徳川家康によっていよいよ政治的敗北を喫した

家康が開いた徳川幕府は仏教の骨抜きに取りかかる。本末制度は、各宗派を本山~末寺などに系列化させ、本山に人事権などの権力を与えた。これによって本山は各宗派を支配し、その本山を幕府が支配するという体制が確立。さらに、寺院と檀家の関係を固定化する「寺請制度」を導入する。強固となった寺院と檀家の関係は戸籍としても機能し、幕府の民衆統制の根幹となる。この関係から寺院による葬式が慣習化することとなり、仏教側の大きな収入源となった。つまり仏教は幕府の支配というムチで叩かれ、民衆への支配権というアメを与えられ、骨抜きにされたのである。寺請制度は現代に至る日本の家庭環境の原型ともなり、必ずしも批判されるだけのものではないと考えるが、江戸期における「葬式仏教」とは、政治的勢力としての仏教が江戸幕府に屈服した姿であった。

さらに仏教は思想的にも停滞していく

江戸時代、政治勢力としての仏教は完全に消滅し、幕府の支配下で民衆を支配する道具と成り下がった。さらに仏教は思想面においても攻撃を受けることになる。

山崎闇斉(1618~82)らは仏教の現実を軽視する脱世俗主義を批判し、仏教側も論争を迎え撃ったものの、その後江戸学問の中心は儒学にとって替わられた。
また、富永仲基(1715~46)は、江戸仏教は釈迦の教えを書き加えて成立したものだとする大乗非仏論を唱え、山片蟠桃(1748~1821)は科学的唯物論の立場から、地動説などの科学理論を駆使して、仏教の世界観を批判するなど仏教は各方面から攻撃を受ける。

仏教側もただ黙っているわけでもなかったが、本末制度と寺請制度による安定した立場からは、積極的な改革やダイナミックな創造力は生まれようがなかった。仏教は思想においても停滞を余儀なくされたのである。

一方、民衆は仏教を真の隆盛の時代であったと考えていた

江戸期における仏教の政治的敗北、思想的停滞は、仏教の傲慢や怠慢が呼んだまさに自業自得的な感もある。これを堕落と見るのも当然だろう。しかしこれには大切な視点が抜けている。「庶民・民衆」の存在だ。政治や思想などという小難しい世界は、知識も教養もない庶民にはまったく関係ないことだった。柳宗悦(1889~1961)は庶民の視点から、堕落の時代と批判される江戸仏教こそ、真の仏教隆盛の時代であると主張する。

民衆の生活に着々と浸透していった仏教

柳は民芸というこれまで省みられることのなかった庶民による工芸に光を当てた人物である。その柳が述べるところによると、徳川時代の村には多くの仏を祀る祠や堂が立てられ、旅行く人が行き交う街道には、仏の名が刻まれた碑や塔が旅人の疲れを癒した。それらはすべて名のある高僧でも腕利きの仏師でもなく村人の手によるものである。

豪奢な大寺院や、きらびやかな仏像、深遠な哲学はあくまで貴族の仏教であり、武家の仏教であった。それらは一定の知識層に向けられたものである。現代人がその価値を理解し、観賞するのは一定の教養を得ることができているからこそだ。しかし、目に一丁字もない民草に芸術や学問などわかるはずもない。

彼らはひたすら「南無阿弥陀仏」や「南無妙法蓮華経」を唱えた。「南無」が阿弥陀仏に帰依するという意味であるとか、「阿弥陀」とはサンスクリット語で云々など知るはずもなく、菩提を弔うために、己の救いのために、ひたすら無心に唱えたのである。字の読めない民衆のために般若心経の文言を絵で表した「絵心経」もこの時代のものであった。江戸期は仏教が庶民の生活に浸透・密着した時代であった。

民衆にとって多種多様な役割を果たした仏教

仏教学者・末木文美士は仏教が庶民に浸透したことで日常の様々な役割を果たしたと指摘している。末木によると、寺院は役場、文化センター、よろず相談所でもあり、社会的弱者である女性のためのシェルター(駆け込み寺=縁切寺)もあった。さらに娯楽の場でもあり、「伊勢参り」や「お蔭参り」など、宗教行事は民衆にとってのレクリエーションでもあった。お遍路などの巡礼が民衆に広まったのもこの時代である。江戸期の仏教(宗教)は民衆と共に歩いてきたのである。

確かに仏教が葬式仏教に成り下がったのは江戸時代ではあったが…

歴史とは基本的には著名な人物や大事件、特筆されるべき文化・文明によって構成される。その視点からは確かに、江戸仏教が悪い意味での葬式仏教として堕落したものとされるのは仕方のないことだろう。

一方で、江戸時代に仏教を担った主役が、学者や高僧ではなく、名も無き庶民だったとすれば、江戸仏教が仏教史において見劣りするのは当然である。歴史は語らずも仏の教えは民の隅々にまで行き渡っていたのだ。柳は言う「貴族の仏教よりも、武家の仏教よりも、町民や農民の仏教こそ讃えていいではないか」。

江戸時代、仏教は民衆の救いとなっていた

民草の隅々にまで仏の教えが染み渡った江戸時代こそ篤心の時代だったといえる。この視点から見た江戸仏教=葬式仏教は必ずしも堕落した仏教ではなく、民を癒し、民と共に歩んだ仏教であり、本来最も救いを求める人たちのための仏教であった。こういう視点は日本史の教科書だけ読んでもわかることではない。家の近所に素朴で純真な信仰が息吹いていた痕跡を見つけたなら、年号や有名人の羅列以上のものを学ぶことができる。

参考文献

■柳宗悦著・寿岳文章編「柳宗悦 妙好論集」(1991)岩波文庫
■末木文美士「日本仏教史―思想史としてのアプローチ」(1996)新潮文庫
■末木文美士「近世の仏教―華ひらく思想と文化」(2010)吉川弘文館

ライター

渡邉昇(掲載日:2019/07/02 更新日:2020/06/02)

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