日本の夏のイベントとしてすっかり定着した「音楽フェス」。好きな時に好きな場所で音楽や食事を楽しめるフリースタイルさが人気のフェスは、現在では宗教の世界でも「寺社フェス」が開催されるほどだ。音楽フェスでは、その主役はもちろんバンドだが、最近、ロックの世界にも宗教が進出している事をご存知だろうか。宗教を身近に感じてもらうため、ロックやポップスに宗教の教えを託した本物の僧侶たちによる僧侶バンドが全国で結成されているのだ。その中の、代表的なバンドをご紹介したい。
コミカルな僧侶たちによる楽しいライブが人気「坊主バンド」
2010年、浄土真宗、真言宗など、様々な宗派の僧侶が集まって「坊主バンド」は結成された。作詞作曲を担当するボーカルの色即是空男(しきそくぜくお)を中心とした総勢8人のメンバーで、お寺や坊主バーでひっそりとライブ活動をスタート。
シンプルなロックサウンドに、琵琶、木魚、おりん、尺八といった仏教感漂う楽器を加えた他に類を見ない演奏、色即是空男によるプロのコミックバンドも顔負けの軽妙なMC、本物の袈裟姿でアクティブに動きながら「坊主の一週間」「ご縁ソング」「煩悩ファンク」など、仏教の世界をユーモアたっぷりにシャウトするライブは話題を呼び、新聞やネットニュースに取り上げられる他、テレビ出演を果たすほどの人気となった。
さらに、2018年には坊主バンドから派生したスピンオフバンド「THE 南無ズ」を結成。仏教エンターテイメントバンド「THE 南無ズ」による「てら・テラ・寺」は、楽曲、ミュージックビデオ共に驚きのハイクオリティだ。一見の価値はあるのでぜひご覧あれ。
美しいコーラスによる般若心経が感動的を呼ぶ「キッサコ」
愛媛県今治市にある臨済宗・海禅寺の副住職、薬師寺寛邦(やくしじかんほう)は、僧侶となる前の2003年に、コーラスグループ「キッサコ」を京都で結成した。「キッサコ」とは、禅語で「喫茶去(お茶でもどうぞ)」という意味。
2013年に僧侶となると、仏教の教えをポップスに乗せた曲で、寺院ライブを中心に音楽活動を続けて行く。そして2018年、メンバーの脱退をきっけに、僧侶ボーカルプロジェクト「薬師寺寛邦 キッサコ」として新たな活動を開始した。「お経を様々な世代に聞いてもらいたい」という思いから、キッサコは、お経の代表とも言える「般若心経」を、コーラスとアコースティックギターでアレンジしたした「般若心経 cho ver.」を発表。youtubeにライブ動画を公開すると、日本のみならず台湾や中国でも反響を呼び、驚異の再生回数を記録した。
2018年5月に発売したアルバム「般若心経」には、様々なミュージシャンとコラボした「般若心経 cho ver.」のリミックスバージョンが収録されている。キッサコの奏でるお経とフォークミュージックのミックスチャーは、斬新でありながら、遠い昔に聞いたような懐かしさも感じさせ、何の抵抗もなくスッと心の中に入ってくる。この感覚を、ぜひご自分の耳で聞いて実感して欲しい。
仏教には負けられないぜ!他宗教のアーティストたち
宗教界で音楽活動を活発に行っているのは仏教だけではない。キリスト教からは現役キリスト教会牧師たちによる「牧師ROCKS」が坊主バンドの良きライバルとして対バンを張り、神社の「歌う神主 壮紫(そうし)」は、美声を活かしてFMラジオのパーソナリティも勤めている。このような新しいムーブメントに抵抗感を持つ人々もいるかも知れないが、古くから深く関わり合って発展してきた宗教と音楽が、今、バンドという形で融合された事は、自然な結果だと言えるだろう。