台風21号が上陸して、一歩も外に出かけられないので、久しぶりに映画を見ようと思い、折角なので葬儀に関わる作品を探してみた。
伊丹十三監督の「お葬式」、滝田洋二郎監督の「おくりびと」など、葬儀関連の映画は多々あるが、どれもあまりに有名だ。もっと心惹かれる作品はないものかと探していたら、一つ、気になる作品があった。2011年公開、ガス・ヴァン・サント監督の「永遠の僕たち(原題:Restless)」。
ガス・ヴァン・サント監督とお葬式、それだけで充分興味深い。早速観てみる事にした。
男女と幽霊が織りなす不思議なストーリー
主人公のイーノックは、喪服を着て他人の葬儀に参列する事が趣味。そして、イーノックにしか見えない、第二次世界大戦中に戦死した日本兵の幽霊「ヒロシ」が唯一の友達という、風変わりな青年だ。ある日、いつものように他人の葬儀に出席していたイーノックは、アナベルという少女に正体を見抜かれ、それをきっかけに二人は友人となる。何度か会ううち、惹かれ合う二人だったが、実はアナベルは脳腫瘍を患っており、余命数ヶ月であると言う。それを聞いたイーノックは、残りの数ヶ月、楽しい事をしようとアナベルに約束する。
特殊な状況でありながら、二人は普通の恋人のように、デートをし、愛し合い、喧嘩をする。そして物語が進むに連れ、なぜイーノックが他人の葬儀に参列するようになったのか、なぜ幽霊の「ヒロシ」が見えるようになったのかが紐解かれて行く。徐々にアナベルの最期の日が近づいて来る。彼女に会う事をためらっていたイーノックであったが、幽霊の「ヒロシ」を通じて、最期に愛を伝える事の大切さを知るのだった。
若者と死
この作品の主人公は10代であるが、二人には死が身近に存在する。アナベルは自身の病気によって、イーノックは両親の死とその時の臨死体験によって。
自分の死を穏やかに待つアナベルと、彼女の死を静かに受け容れたイーノック。最期の時「大丈夫?」とイーノックを気遣うアナベル。堪えきれず隠れて涙を流すイーノック。死を実感している二人だからこその、切ないラブストーリーだった。
アナベルが「ヒロシ」と共に旅立った後、彼女が生前に計画していた通りのお葬式が執り行われるのだが、そのシーンが印象的だ。美味しそうなケーキやドーナツが所狭しと並び、彼女が好きだった花や小鳥の置物が飾られているテーブルは、まるでパーティのよう。
また、冒頭のシーンでアナベルが喪服のイーノックに言う台詞も印象的だ。
「喪服なんか着てるから、気が滅入るでしょ。最近は明るい色が普通よ」
アナベルの葬儀の時、イーノックは喪服ではないブラウンのスーツを着ていた。故人の希望であれば、こんな可愛らしいお葬式もいいと思った。
ガス・ヴァン・サント監督の世界観
ガス・ヴァン・サント監督は、1989年に公開された「ドラッグストア・カウボーイ」以来、ハイセンスな映像と選曲で、多感な若者達の屈折した感情を、クールに描き続けて来た。また、多くの作品で「死」を通しての人間の絶望と希望を映し出している。
「永遠の僕たち」でも、アナベルの死を通して、両親の死を乗り越え、前を向き始める若いイーノックの姿が描かれているが、この作品を撮った時、ヴァン・サント監督は59歳。デビュー当時と変わらぬ瑞々しい感覚に、驚かされる作品である。