院号とは?
院号とは、戒名や法名につけられる称号のことで、戒名などの冒頭につけられる「○○院」といったものを指します。古くは天皇や寺院を表す異称、あるいは皇族の尊称として使われていましたが、時代が進むにつれて在位していた天皇が崩御された場合にも院号をつけるようになりました。さらに平安時代から鎌倉時代には皇族をはじめ、公家や将軍家の戒名としても院号が使われるようになりましたが、室町時代以降には大名家をはじめ、その側室や武家にまで広がったため、院殿号といったさらに上位の院号が設定されるようになりました。時代が下るにつれて院号は庶民の間にも広がり、今日では一般の在家信徒の間で広く使われています。
また戒名ではなく「法名」を使うのは浄土真宗です。一般的に戒名や法名は死後につけられるものと認識されがちですが、かつては僧侶や信徒が仏門に入り、戒名をいただくことを「受戒」といいました。受戒の儀式をすることが仏の弟子になったという証明で、戒名はその証明書のようなものです。ですから戒名は本来なら生前につけるものでした。その受戒の儀式が、やがて仏になることを願う儀式、つまり葬儀の際に戒名をいただく形に変化したと言われています。
しかし浄土真宗には「受戒」という概念がありません。これは凡夫が仏の教えを守り抜くことはできない、罪深い己の本当の姿に気づき、阿弥陀如来に全てを委ねるべきだという「悪人正機」や「他力本願」といった浄土真宗の教義によるものです。人の子だから戒めを守れるとは言い切れないが、仏の弟子であることには変わらない。そういったことから戒名ではなく「法名」を使うようです。
法名にも院号を使うことがありますが、本来は寺に大きな貢献をした者につける称号でもあるため全ての人は死後の世界、浄土では平等であるという浄土真宗の考え方にそぐわないとも言われています。
院号の豆知識:院号っていくら?気になる相場
現代では院号を自分でつけることもできます。かつては菩提寺の住職などからいただくことが多かったのですが、戒名料が高額かつ価格が不鮮明なことから自分でつける人も増えているようです。本来は寺院が院号をつけることは「商売」ではなく、いただいた側は対価ではなく「お布施」として任意の金品を渡していました。相場などあってないようなもの。しかし2010年、とある大手流通会社がお布施や戒名料の相場を自社のホームページで暴露したのです。当然多くの関係者は反発しました。「善意に相場などない」と。そうはいっても、お金に絡むことは庶民にとって大きな問題です。
かつて院号は身分の高い人がつけるものでした。ある程度自由になった現代ですら、その慣習は生きている部分があります。院号の一種である院殿号は、今では総理大臣をはじめとする政治家や地元の名士、あるいは何か「先生」と呼ばれるような立場の人につけられることが多いようです。その相場も一般的な院号が20万円から100万円かかるのに対して、院殿号をつけた場合の戒名料は500万円以上すると言われています。
現代ではインターネットでお坊さんと相談し、数万円で院号を「発注」できる場合もあるようですが、本来院号は寺院を建立できるほどの立派な人に与えられる称号でした。そのためか価格も高く設定されているようです。また今日では「どのような人物だったか」を端的に2文字の院号で表す傾向があるようです。著名人の例を挙げると文豪・夏目漱石は「文献院」、昭和のスター・石原裕次郎は「陽光院」。なんとなく生前の姿がイメージで
きる気がしませんか。人の在り方をどのような言葉で例えるか、考えるとなかなか奥深いですね。