釘打ちとは?
釘打ちとは、出棺の際に故人の棺を固定するため、石などで蓋に釘を打ち付けることです。現在のような全身を伸ばして入る形の棺は、古くは皇族などの身分の高い人のためのものでした。当時一般の人は樽のような形のものに故人の身体を二つに折り曲げておさめ、墓場までの長い距離を担いで歩いていました。その頃は蓋を縄で固定していたようですが、現在のような棺が普及するにつれ、石で釘を打つようになったと言われています。
釘打ちをした理由には、いくつかの説があると言われています。かつては何を作るにも手作業であり、素材も天然の木材だったため、天候や湿気などで棺が簡単に歪んだりしました。さらに長距離を歩いて運ぶため蓋が開いたり外れたりしやすかったようです。そのため釘を打つようになったのが理由の一つです。また昔は医療も発達していないため、棺をふさぐことで感染症対策をしていた、故人が「三途の川」を無事に渡れるように川原の石を使って釘を打った……など、釘打ちの起源や意味には様々ないわれがあるようです。
しかし現代では釘打ちをすることが減ってきました。火葬の際に釘のような不燃物を入れられない火葬場の事情、故人の頭の上でガンガン釘を打つことに耐えられないという遺族の心情などに配慮して、釘打ちそのものをやらない葬儀が増えているようです。あるいは葬儀社である程度釘打ちをして、最後の一つを喪主が打つなど簡略化されていることもあります。もし釘打ちをする場合は、あくまで儀式的なものなので強く打ち込む必要はないようです。打つ際は一人二回ずつ、棺の頭のほうから軽く打っていきます。
釘打ちの豆知識:浄土真宗で釘打ちをやらない理由
現代では火葬場などの都合から、釘打ちを行わないケースも増えてきました。ですが浄土真宗ではもともと釘打ちの儀式はありません。これには理由があります。
そもそも釘打ちには、死を穢れたものとして封じ込めるという意味合いもあったようです。伝染病などがひとたび広まると村一つが全滅しかねない時代の知恵でもありましたが、「穢れ」とは元来は神道の考え方で、仏教の故人の霊を敬うという考え方とはそぐわないものでした。しかし時代が下るにつれ、神道を信仰することが禁止されたり、あるいは仏教が庶民の間に広まるにつれ土着の迷信などと混同したものとなり、次第に仏教式の葬儀などでも「清め塩」など神道由来のものが入ってくるようになりました。
そこで一番抵抗を示したのが、浄土真宗です。浄土真宗では「あの世、浄土では皆平等である」といった考えでもって、死を穢れとは捉えず、浄土の境地へ至ることを救いのように教えています。ですから神道由来の「死=穢れ」という考えとは一番かけ離れた宗派でもあるのです。
さらに浄土真宗を広めた親鸞が、800年もの昔に迷信や占いを信じる時勢を嘆いた文章を書かれている(正像末和讃)ことから、浄土真宗の信徒の間では「門徒物忌みをせず」といわれ、迷信的なことを行わないことを誇りにしているところがあるようです。
こういった背景があって、浄土真宗では出棺の際に釘打ちをしないのです。