数年前、映画「おくりびと」が話題となった。故人の横たわる横そばで何かの作業をしていた、という映像が思い出されるが、おくりびととは、「納棺師」という職業である。その納棺師とはどのような仕事をする人物なのか。
納棺師の具体的な仕事内容
納棺師とは、一言で表すと、「亡くなった方を棺に納めるための作業と、それに関連する商品の販売を行う者」である。その他の呼び方としては「湯灌師(ゆかんし)」や、「復元納棺師」などがあるが、ほぼ同様の意味である。
仕事内容としては、葬儀社からの依頼によって、亡くなってから火葬されるまでの遺体の状態を管理するというものだ。しかし、ただ運んだり棺に入れたりするだけではない。故人と遺族が対面できるように遺体を整えるという重要な役割がある。家族の死に直面し、悲しみにくれる遺族へのきめ細やかな思いやりが必要となる。
具体的な作業としては、ドライアイスを利用して腐敗の進行を抑えたり、交通事故や変死体などの場合には、遺体の状態によって遺族が必要以上のショックを受けないための処置を行う。そして死装束に着替えさせ、顔剃りや化粧を施したりする。
親族が亡くなったとき、故人に触れることのできる最後の機会として、納棺作業がある。その時間は、遺族が故人の死を受け入れるための非常に重要な時間となる。その時間をつくりあげるのが、納棺師の仕事なのである。
納棺師の歴史や必要な資格
納棺師の歴史は意外に浅く、まだ数十年である。1960年頃に商業として成り立ち始めたとされているが、葬儀業者の下請けとして名乗り始めた「造語」であり、仏教や日本文化と関わりがあるわけではない。そして映画「おくりびと」でその存在が注目され、世間に知られることになった。
納棺師になるために必要な特別な資格はない。納棺師専門の業者に就職するか、葬儀会社に就職して、納棺業務に携わるかのどちらかになる。ただ近年では、専門学校の中に葬儀に関連することを勉強できるコースがあり、そのような学校に入学し納棺業務を学び、納棺師を目指すという方法もある。そのような学校であれば、就職先へのパイプも太い。
最後に…
映画では、主人公の納棺師が様々な境遇の死に出会い、次第に納棺師という職業に誇りを持っていく姿が描かれる。
納棺師とは、上述したような、具体的な作業や、死や葬儀に関する知識を持っていればよい、というものではない。むしろそれ以外の部分が他のどの職業よりも重要な仕事ではないだろうか。故人と遺族の最後の対面のための準備は必ず毎回違うはずである。故人の年齢・死因・遺族の様子など、ありとあらゆることを考えて、できるだけ、穏やかな最後を、と思いながら仕事をする。それはただの「職業」ではくくることのできない存在ではないだろうか。