2016年11月15日、神奈川県横須賀市と神奈川歯科大学が『エンディングプラン・サポート事業』として連携協定を締結した。自治体と大学が協定を結ぶことはこれが初めてである。何についての協定かというと、死後に遺体を医学の発展のため大学に提供する『献体』だ。これには昨今話題となっている『終活』が大きく関わっている。献体とはどんなもので、終活とどのような関係があるのか少しだけ紹介したい。
そもそも献体とはどういったものなのだろうか。
献体は、亡くなったあとに教育のため、あるいは医療の発展のために大学に無条件・無報酬で遺体を提供することを言う。
提供された遺体は正常解剖といって 人体の構造を調べるための解剖に使われる。現在、医学部医学科や歯学部歯学科のカリキュラムには遺体の解剖実習が必ず含まれており、ここでの演習に献体された遺体が使われるのだ。
この献体は生前に献体登録をし、肉親の同意を得ている人なら誰でも行うことができる。もともと身寄りのないお年寄りなどから募集し全体的に不足していた献体希望者だが、最近は登録者が大幅に増え、2015年の3月末には合計23万人を上回った。今や希望者が多すぎて、受け入れを中止している大学もある。
終活としての『献体』―――横須賀市の取り組み
横須賀市では2015年7月から、一人暮らしで身寄りもなく、生活にゆとりのない高齢者の市民を対象とした『エンディングプラン・サポート事業』を行っている。横須賀市内の一人暮らしの高齢者は現在1万人を超えており、今も増加傾向にある。終活についての相談にあらかじめ応じてほしい、といった高齢者の要望から、このような事業が開始されたそうだ。具体的には、対象となる高齢者から葬儀や納骨、延命治療意思についての相談をあらかじめ受け、終活についての支援プランを立てるというものだ。プランは保管され、当人が亡くなった際に実行される。
冒頭に述べた協定もこの『エンディングプラン・サポート事業』の一環だ。神奈川歯科大学はこの事業と協定を結ぶことで、身寄りのない高齢者が献体を希望したときに『エンディングプラン・サポート事業』にも同時に登録し、大学と市とで情報を共有できるようにした。これによって希望者が死亡した際の手続きや情報が入手できるようになり、献体がスムーズに行われるということである。
自身が死後に医学の発展に役に立つという点で、献体は終活にあたってはかなり前向きな考えができるといえる。
『献体』は善意による行い? 葬儀の手段?
先も述べたように、献体登録者は年々増加している。今や飽和状態と言ってもいいだろう。その理由の一つに、献体をすれば火葬代・墓代がかからないという考え方があるのではないだろうか。
社会の高齢化や災害の多発など、自らの死について考える機会は以前よりもずっと多くなった。また高齢者の貧困や孤独死など、死に際しても頼れるものがない、というケースが増えている。そんな中、献体という選択肢は医学への貢献など前向きな考え方からだけでなく、普通の葬儀を執り行うよりも金銭的なメリットが大きい、ということから選ばれることが多くある。しかし大学側の負担は大きく、本来の『善意による医学発展のための無償提供』という献体のポリシーから少しずつ外れているような気が筆者にはしてならない。
どんどん身近に、そして人気になっていく『献体』を、漠然と終活の一種として捉えるのではなく、本来の目的をよく考えることが必要なのではないだろうか。