インドに流れるガンジス川は環境問題となっており、世界で最も汚い川の一つとまで呼ばれてしまっている。
その原因は主に生活排水に由来していると言われており、死体が流れていても騒ぎにならないとすら言われている。日本ではとても考えられないことだが、一体どういうことなのだろうか。
ヒンドゥー教徒にとっての最大の喜びとは
ガンジス川はヒンドゥー教徒にとって、聖地となっていることは多くの方々がご存知だろう。ガンジス川へ行けば、ヒンドゥー教徒が沐浴している光景を目にすることができる。そして、立ち昇る煙と燃え盛る炎、焼かれる遺体の姿も――。
ヒンドゥー教徒にとっての最大の喜びとは、ガンジス川に自らの遺体の灰を流すことだという。事実、ガンジス川のほとりに多数存在する火葬場では毎日のように遺体が焼かれ、その灰がガンジス川へと流されている。ガンジス川は聖なる川とも呼ばれ、その信仰ゆえに川の水を持ち帰る者もいるほどだ。
費用次第で変わる火葬の薪の量
しかし、全ての者がそこで火葬し、灰を川へ流してもらえるわけではない。日本でもそうだが、葬儀には多額の費用がかかる。貧困のために遺体を燃やす薪を十分に用意できず、火葬が不十分なまま流される者もいる。また、子供や妊婦、事故死や病死など、天寿を全うできなかった者も水葬される。
こうした、ガンジス川へと遺体やその灰を流すのはヒンドゥー教の死生観に因るものだ。輪廻転生を信じるヒンドゥー教徒は死後、来世に旅立つために何も残さない。そのため、全てを浄化するガンジス川へと遺体を流すのである。当然、彼らにはごく一部を除いて墓もない。全ての人がほぼ例外なく墓を持つ日本とは全く異なる考え方だ。
生活排水だけでなく、遺体や灰などによる環境問題が深刻化
しかし、前述したようにガンジス川では河川の汚染が大きな問題となっている。その多くは生活排水によるものがほとんどだが、遺体によるものも当然ある。
河川の浄化には多額の費用が必要だ。同じく深刻な汚染が問題となっているインドのヤムナー川ではインド政府によって5億ドルもの資金が汚染対策に投じられたが、効果が薄かったそうだ。浄化設備が高価であることを加味しても、やはり元を断たねば難しいのだろう。
だが、現実問題としてそう簡単にはいかない。文化、殊に宗教とは簡単に変えられるものではない。かといって、放置すれば沐浴することもできなくなるほど汚染は深刻なものとなる可能性もある。文化と環境、どちらも失うことなく解決する手段はあるのだろうか。その神秘的な光景ゆえに、ガンジス川は世界で最も美しい川とも言われている。美しさを損なわず、汚染を取り除く手段はあるのか。文化が失われる前に、解決する手段が講じられることを祈るのみだ。