「人よりも神々のほうが多く住む町」といわれるほど、宗教色の強い街であるカトマンズ。その中にある、ヒンドゥー教最大の寺院パシュパティナート寺院は、シヴァ神を祭っている。バグマティ川の川岸に立ち、インド亜大陸4大シヴァ寺院に数えられている。
バグマティ川とは
この川は、ガンジス川の支流であり「聖なる川」とされ信者たちの沐浴の場でもある。聖地を流れる川として、人々から愛されている。パシュパティナート寺院には、毎日沢山の亡くなったヒンドゥー教徒の遺体が運ばれてくる。それは、遺体を焼いて灰にし、バグマティ川に流されることを望んでいるからだ。遺体は川の水で清められ、組上げた薪の上に遺体を寝かせ、3時間程度の時間をかけて焼く。燃え尽き灰となり、川に流されていく。輪廻転生を信じて墓を造らない、ヒンドゥー教徒にとっては理想的な死である。
輪廻転生を信じるヒンドゥー教
輪廻転生を信じるヒンドゥー教徒。死後、肉体は殻になり魂が器を変えて回り続けるという。誰にでも前世はあり、死ねば必ず来世があるという。キリスト教のような最後の審判や復活などという概念はなく、宇宙が始まった時から、この世の魂は器を変えて生まれ変わり続けているという。信者たちには死を恐れる気持ちはない。来世で新たに生を受けるからである。
生と死のグラデーション
パシュパティナート寺院の傍に古く白い建物がある。川岸に建ち、孤独な雰囲気が漂う。「死を待つ人の家」だという。死を悟った人がここで最後の時を過ごしている。部屋からは、バグマティ川に運ばれてくる遺体が見える。彼らは何を思いながら、向かってくる死に挑むのだろうか。どのような信仰も死というものを恐れないようにできるのだろうか。彼らには人々の悲しみや苦しみの声だけではなく、明るい希望の声も耳に届いている。バグマティ川は生活の川としても使用されている。インド・バラナシのガンジス川と同じように、人々の生活水でもある。一方では死を迎えたものが流され、もう一方では川遊びをする子供。生と死のグラデーションの様だ。死にゆく者たちは、未来ある生きゆく者たちを見て何を感じているのだろうか。未来ある者たちは流れゆく者たちを見て何を感じるだろうか。死が非現実的なものとなった日本人が感じることのできないものがそこにはあるのだろう。流れゆく聖なる川は私たちに「自然」を教えてくれている。