回向とは?
えこう。回向とは僧侶が、自分が修行によって得た功徳を、ほかの人々にも回し向け、与えることをいいます。また現在では亡くなった人の成仏を願い、供養のために読経のあとに行うことも回向といいます。
僧侶が葬儀の際に行う読経や、その後繰り返し行われる追善供養の際の読経を行ったあとに読み上げることを回向するといい、亡くなった方、または亡くなった方を送り出す遺族の方に向けること、そして僧侶自身にもその悟りをひらくための手助けとなるものです。
回向をするときに読む文章のことを回向文(えこうもん)と言いますが、それも一括に総称して回向と呼びます。
または回向をしてもらった僧侶に対して支払う対価のことを回向ということもありますが、そもそも僧侶に支払う金銭は、対価ではなくあくまでも寄付金という形で行いますので、お布施として渡すことが多いようです。
回向の豆知識:大乗仏教の教え
大乗仏教の教えをよく表したものとして、回向でもよく唱えられる法華経の経典でこういうものがあります。
願わくはこの功徳を以て普く一切に及ぼし、我等と衆生と、皆ともに仏道を成ぜんことを現代語訳は、願いがかなうならば、わたくしの行った善い行いが徳となって力を持ち、わたくしや、また世の中の全ての生きとし生けるものの全ての民の隅々まで行き渡り、また皆がそのことを共に慈しみあいながら、歩んでゆく道を迷わず突き進んでいきたい、というような意味になります。
この教えのもととなったエピソードがあります。
昔、大通智勝仏という仏様がいました。この頃の世の中は、陽の当たらない真っ暗闇に包まれたままでした。人々の心にも悪がはびこり、退廃した世界が広がっているばかりだったのです。
そんなある日仏様は悟りを開かれました。仏様には十六人の子がありましたが、仏様が悟りを開かれたことを知った子らは、その悟りの内容を知るために、仏様のいる菩提樹の下へと、大急ぎで駆けつけました。また悟りを開かれたことで、真っ暗闇だった世の中には陽が差し込み、とうとう世界中は光に満ち溢れ始めました。それに感銘にしたインドの神々が、仏様にその悟りの内容を世に広めていくことを託されたのでした。
暗闇の中で生活することを強いられていた人々にとって、この仏様の悟りにすがる思いでいっぱいでした。仏様がその悟りによって得られた功徳を、世の中の民全てに及ぼしてほしい、そして全ての民が仏様と同じ境地へと導いてほしい、と切実に願ったのでした。