喪主は大変らしい、ということは他界した父がまだ元気だった頃から何となく知っていた。
今になって思い返してみても確かに大変だったのだが、実際に体験してみて初めてわかった苦労というものもある。
それは、メロンである。
供物に頂いたとても高価なメロン
父を看取ってから葬儀までの間、自宅に葬儀屋以外に覚えている限りで5組の来客があった。
葬儀の日に都合が付かず参列出来ないために来て下さった方、葬儀とは別にわざわざ父の冥福を祈りに来て下さった方、誰もが丁寧に我々家族に声を掛け励まして下さり、立派なお花や手土産、お供え物を持って来て下さった。
その中に、メロンがあった。
庶民はなかなかお目にかかることのできない、見た目で高価であることがわかる、立派な桐の化粧箱に入れられたメロンである。父を亡くした直後ではあったものの食い意地の張った庶民の私は喜ばずにはいられらなかった。告別式の後でみんなでいただこうと家族で話していた。
フルーツの盛籠に含まれたメロン
葬儀でもたくさんの花を贈っていただいたのだが、中にはフルーツを送って下さる方もいた。
見たことのない方もいらっしゃるかもしれないが、祭壇に飾られる花のように大きく盛り付けられたフルーツが贈られる場合もあるのだ。
普通は葬儀の後で紙袋に少しずつ分けて参列者に配るのだが、父の葬儀の時は会場の都合で火葬の後に斎場まで戻られた方が少なく、殆どを私と母と姉夫婦の4人で分けることとなった。
内容は林檎、オレンジ、グレープフルーツ、桃、パイナップル、キウイフルーツ、缶詰等々…そして、メロンである。
処分に困ったメロン
食べるのに手間がかかるものは姉夫婦に引き取ってもらったのだが、我が家の冷蔵庫の中でメロンが2玉眠ることとなった。
その晩のデザートをメロンにしたものの母と私2人では一食で半玉を胃に入れるのがやっとであった。私は職場に1玉持って行って仕事を休んだお詫びとして上司に渡し、夜に帰宅して冷蔵庫を開けて信じられない物を目にした。
半分に切られてラップに包まれたメロン、の脇に、未開封のメロンの箱がなんと2箱追加されていたのである。
母によると、私の留守中にそれぞれ別の方から父の死を悼んで更なるメロンが届けられたとのことだった。
供物を贈るなら、まずは遺族や葬儀屋に連絡しましょう
その後の記憶はあまり残っていないが、父を亡くした直後で腫れ物に触るように私を気遣っていた友人達に「お願いだからメロン食べに来て!」と連絡をしたこと、そしてメロンを腐らせたり食べずに処分するなど絶対にあってはならないという、食い意地の張った庶民の信念に恥じない行動を取ったことだけは覚えている。
父の他界は定年退職前で交友関係も広く、早過ぎる死にショックを受けた方も多かったのだろう。それだけ家の外でたくさんの方が父を愛し親しんで下さっていたということに、家族として感謝の念は言い尽くせない。
自宅の冷蔵庫にメロンがあるという状況であんなにテンションが下がったのは、後にも先にもあれきりである。
もしも供物を贈る立場になったら、まずは遺族や葬儀屋に贈りたい旨を伝え、処分に困るようなものかどうかの配慮をしていただけると遺族にも喜ばれるだろう。