この言葉は私がボイストレーナーとして働く、勤務先の創立者が残した遺言だった。
私が勤め始めたころにはもうすでに入院されていて、私自身は創立者である初代学院長のことを良く存じ上げないままに、お亡くなりになられた。
みんなで執り行った音楽葬
しかしながら、家族同様のお付き合いを続けてきた先輩講師の方々も多く、なんとしても学院長の遺言どおりにお見送りしたい…、と一団となって音楽葬を企画し、もちろん私も賛同し一生懸命に歌わせていただいた。
人づてで安く区のホールを貸し切り、無償に近い状態でなんとか音響設備も整え、搬入・設営も全て講師の手で行った。
準備段階においては少々揉め事もあったそうだが、当日はステージ上も楽屋も終始学院長の思い出話に花が咲く本当にあたたかい音楽葬となった。
2種類ある音楽葬
さて、そのまだまだなじみの少ない音楽葬だが、大きく分けて2種類ある。
ひとつは葬儀のBGMに故人の好きな曲をかけるというものと、ふたつ目はプロの演奏家を招いて故人の好きな曲を演奏してもらうというもの。
どちらにしても理解を得るのはちょっと難しいかもしれない。必ずしも好きな曲が葬儀に合うとは限らないし、ふたつ目の場合だと演奏家へのギャランティも発生してしまう。
ざっと調べたところによると一人の演奏家を呼ぶためには平均3万円ほどの費用が必要となる。もちろん業者サイドはもっと大人数をと勧めてくるだろうから仮に3人呼んだりしたらもう10万円ほどの出費となってしまう。
遺族が演奏する音楽葬なら、心を込めた葬儀が出来るはず!
そう、10万円出してプロを呼ぶくらいならいっそのことご遺族で演奏されたほうがいい!!と私は思う。
縁もゆかりもないプロの確実な演奏よりも、つっかえながらも気持ちのこもったご遺族の演奏のほうが故人も喜ぶし、参列にお越しいただいた方々も深く感動すると思う。ご遺族の演奏となると、もう葬儀に合う合わないなんてことも一切気にならなくなる。
楽器だって本物のピアノじゃなくても今は良い音色の電子ピアノがたくさん流通している。上を見ればキリがないがちゃんとしたメーカーのものが5万円以内で販売されている。
そして最も肝心な楽器演奏だが…、多少のブランクはあっても心得のある方だったらちょっと練習すれば徐々に指の運びは思い出せるはず。
音楽葬を検討してみてはどうでしょうか?
では、まったく鍵盤に触れたことのない方はどうすればいいのか?実は、メロディだけなら指1本で充分である。実際に指1本で弾くための教則本やDVDも数多く出回っている。
楽譜が読めなくても、DVDを見ながら指1本でその通りに鍵盤を押さえていけば流れるようにとはいかなくても心のこもったメロディは奏でられる。
突然の不幸では対応しづらいかもしれないが、覚悟を積み続けた上での音楽葬をお考えの方がいらっしゃったら、BGMやプロの演奏も勿論よいが、ぜひ自身で奏でる曲や歌に故人への想いを託してみてほしい。
ついつい力説してしまったが、私自身もつらい想いをしながら音楽に携わった経験はたくさんある。そして、それ以上に音楽に救われてきた。
音楽は、大切な人を失った後の寂しさや悲しみ全てを癒すことはできないが、もしかしたら心の隙間を埋める生きがいとなるのかもしれない…。