おくりびととは?
映画になったことで広く知られることとなった「おくりびと」とは、納棺師の呼び名で「湯灌(ゆかん)師」とも呼ばれます。故人に旅立ちの出で立ちを整え、棺に納める作業を行います。とくに国家資格などは必要なく、葬儀社の人間が行うことが多いのですが、専門の学校があるほど作業には専門的な知識、技術を要します。
まず、ご遺体の腐敗進行を防ぐために、ドライアイスを使って冷却を行います。このほか表情を生前に近づけるため綿を用いて口内に含ませたり、化粧を施す(男性では顔そり)のも納棺師が行います。ご遺族の見守る中で作業を行うことも多いため、手際よく厳粛に進めなくてはならない、神経を使う専門職と言っても過言ではありません。仏衣に着替えさせるのは容易ではなく、納棺には数人の「おくりびと」が携わります。
葬儀社によって異なりますが、ご遺体を洗浄、清拭するための湯灌を行うこともあるようです。遺族と故人の最後の時間が安らかに流れるよう、火葬までご遺体の管理をするのが「おくりびと」の役割です。
おくりびとの豆知識:科学的知識が必要な「エンバーミング」
仏衣に着替えさせたり化粧をすることで、旅立ちの準備が整えられるとは限りません。交通事故死や自死により、ご遺体が激しい損傷を負うことがあります。こうした際には、弔問客にご遺体を見せないといった寂しいお別れを余儀なくされることがあります。しかし、アメリカ発祥の「エンバーミング」でご遺体を修復することができるのです。
動脈から薬液を流し込むことで顔色を良くしたり、骨折により変形した箇所を復元するなどして、生前の姿へと近づけます。また腫瘍など病気による表情変化にも対応することができます。
このエンバーミング、古くは古代エジプト(紀元前3200年〜)から行なわれていました。ミイラがまさにそれで、臓器を取り出した後に薬用の植物抽出液を体に流し込んでいたのです。やがて内臓摘出や防腐処理をした上で、タールに浸した布でご遺体を包んでいきます。ホルマリンによる保存を経て、南北戦争時にご遺体を長距離移送させるため、飛躍的に技術が進歩したのです。
日本では耳慣れない技術ですが、アメリカでは9割方、イギリスでは7割がご遺体にエンバーミングを施しています。日本では大半が火葬ですから、必要ないと考えるのも無理ないですが、ご遺体の損傷という辛い状況を緩和するのが、エンバーミングという技術なのです。医学はもちろん、エンバーマーの技術が故人と遺族をつなぐ最後の思いを紡いでいくのです。
おくりびとがエンバーマーと異なる点に、ご遺族や参列者とのご対面があります。死出の旅立ちを整えるおくりびとは、故人に対してだけではなく、残されたご遺族や近親者への配慮も必要となります。最後のお別れを悔いなく過ごせるよう、おごそかな雰囲気作りも大切な要素となり、これもまたおくりびとの役目なのです。