満ち欠けをすることから「死」と「再生」の象徴とされる月。日本ではお月見の風習など、風雅な存在として月を捉えることが多いが、西洋では月の光を浴びると狼に変身するなど、狂気を伴う印象が強い。ラテン語で月を表す「luna」が語源の英語「lunatic」は、狂人という意味を持つ。晩秋に月についてあれこれ考察してみたい。
お月見は日本人の独特の感性
小林秀雄氏は著書「考えるヒント」の「お月見」というエッセイの中で、知人から聞いたお月見のエピソードを紹介している。
京都の嵯峨で若い人たちが集まって宴会をしていた。たまたまその日は十五夜にあたっており、山の端に月がのぼった。すると、誰しも月に目を奪われ、月見の宴となったそうだ。
ところが、そこに同席していたスイス人の客人達は、一変した座の雰囲気が理解できなかった。小林氏はその感覚を「日本人同士でなければ容易に通じ難い、自然の感じ方のニュアンス」と表現している。
月の光の虹「ムーンボウ」
可愛がっていたペットが亡くなったことを「虹の橋をわたる」と表現する飼い主がいる。
虹は、太陽の光が雨滴のプリズムに反射・屈曲して七色に分解されたもの。実は月の光でも虹をつくることはできる。月の光は太陽の光を反射しているからだ。月の光の虹は「月虹(げっこう)」、英語では「ムーンボウ」「ナイトレインボー」などと呼ばれている。
強い太陽の日差しでつくられる虹と違い、月の虹は光が弱いために、肉眼では白っぽく「銀の虹」ように見える。満月の時が一番出やすいと言われるが、簡単には見ることができない貴重な虹だ。
月を題材にした回文
月を題材にした、日本の代表的な物語といえば「竹取物語」がある。この他、和歌や俳句など、月を詠んだ作品は本当に数が多い。ユニークなところでは、月に関する回文(上から読んでも下から読んでも同じ)を紹介したい。江戸時代につくられたもので、よくできている。
・白萩を 月に見に来つ お気晴らし(しらはぎを つきにみにきつ おきばらし)
・照りて来つ 西に真西に 月照りて(てりてきつ にしにまにしに つきてりて)
鉄砲鍛冶が望遠鏡を製作
人類初、本格的な天体観測を行ったガリレオ・ガリレイは1609年、これまで完全な球体だと思われていた月の表面にクレーターがあることを発見した。望遠鏡が日本に輸入されたのは1613年(慶長18年)と言われ、徳川家康に献上されたと伝えられている。
その後、日本でも近江の鉄砲鍛冶士だった国友藤兵衛が、鉄砲鍛冶の技術を応用し反射式望遠鏡を制作。1835年(天保6年)から太陽や月を観察し、月の詳細なスケッチを残しているという。
参考資料
■小林秀雄「考えるヒント」1974年 文藝春秋
■ドナ・へネス「月の本」真喜志順子・訳 鏡リュウジ・監修 2004年 河出書房新社
■藤井旭「新版 月と暮らす。」2019年 誠文堂新光社
■渡部潤一・編著「最新・月の科学 残された謎を解く」2008年 日本放送出版協会