新緑まぶしい気持ちのいい季節となった。晴れの日も多く、花は咲き、思わず外に出たくなる気候である。しかしそのさわやかさに反してこの季節になると増加するものがある。それは自殺の件数である。
厚生労働省が出す人口動態統計特殊報告には、年齢別のデータでは、男性は70歳以上を除き、3~5月が自殺のピークになる。内閣府は3月を自殺対策強化月間としている。なぜ若い男性は3~5月に亡くなるのか。働く世代の持つ不安とストレスについて考えてみたい。
3〜5月に自殺が増える理由
3月がなぜ自殺対策強化月間になっているのか。それはこの時期が決算期であり、倒産を迫られる会社、それに伴い失業を余儀なくされる社員が増えることが理由の一つだ。突然経済的な基盤を失うことへの不安は想像に難くない。
また個人事業主も他人事ではない。3月は確定申告の時期である。1年の総決算を数字として目にすること。事業がうまくいかなかった年には大変なストレスになるだろう。
また、倒産や失業を免れたとしても、会社員には異動がある。慣れない職場へと移動する不安。そして契約・派遣社員、フリーランスには仕事が打ち切られる可能性の高い時期だ。
経済的な不安が急激に押し寄せる季節。その強い不安感の中にいる人には、輝く緑は眩しすぎる。「周りは幸せそうなのに、自分は…」と却って深い虚無感に落とされかねない。春はこのように、働く世代にとってストレスの多い時期なのである。
平成29年警察庁が調査した統計によると働く人の自殺理由1位は健康問題(2720人)、次いで経済・生活問題(1801人)であった。経済・生活問題に直面し、死を選ぶまで追い詰められた人々はうつ状態だった可能性が高い。経済的に困窮し、うつ病という健康問題を併発しているのである。
若い世代のうつ
「今日入社式だけど不安しかない」
先日入社式を控える人々のツイッターで飛び交った言葉だ。近年の新社会人は期待より不安の方が大きいらしい。春に入学・入社を控える若い世代にとっても、訪れる大きなライフスタイルの変化はストレスに繋がる。
環境が変わり、慣れない生活で体を壊した経験のある人は多いのではないか。3~5月は寒暖差も激しい。精神的ストレスだけでなく、この急激な気温の変化は体にとっても大きなストレスになる。自律神経のバランスが崩れ、疲れが取れず、だるくなる。ここに精神的強いストレスが加われば、立派なうつ予備軍である。
うつを予防する
精神的・肉体的負担のかかるこの季節。誰しもかかる可能性のあるうつを予防するにはどうしたらいいか。
うつ病の原因はまだ研究段階ではあるが、脳内神経伝達物質「セロトニン」の欠乏が原因に繋がるという考え方が有力だ。セロトニンは「トリプトファン」から生成されるので、これを多く含む食べ物を意識的に摂取することが大切だ。肉・乳製品・納豆・たらこである。また室内にこもって日の当たらない生活をすることもよくない。軽く汗ばむ程度の運動はストレス値を下げる。
現在は心療内科など、受診しやすい病院が増えた。眠れない、頭痛がひどい、物忘れが多くなるなどの症状が見られたら、早めに受診してはどうだろうか。また、厚生労働省は自殺対策強化月間だった3月にLINE相談を実施した。これには1129件の相談があったと発表されている。初めての取り組みだったが、20才以下からの相談が大半であった。このような手軽なサービスが広く浸透してくれると自殺への大変な抑止力となることだろう。
気持ちの良い季節を心地よく過ごすためには、心にも体にもメンテナンスが必要である。