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養蚕業で栄えた横浜市が感謝の念を忘れないように立てた蚕の供養塔

宮内庁によると、皇后さまは5月1日、皇居内の紅葉山御養蚕所で「御養蚕の儀」に臨み、今年の養蚕作業に入られた。儀式では「蚕座(さんざ)」と呼ばれる蚕の飼育場所に孵化から間もない蚕を羽ぼうきで移し(掃立、はきたて)、小さく刻んだ桑の葉を与えられる「ご給桑」、蚕を藁などで編んだ網に移す(上蔟、じょうぞく)、蚕がつくった繭をその年に初めて収穫する「初繭掻(はつまゆかき)」などの手順を踏まれる。

養蚕業で栄えた横浜市が感謝の念を忘れないように立てた蚕の供養塔

来年5月に新皇后となられる雅子様に養蚕作業が引き継がれる

来年5月に新皇后となられる雅子様に養蚕作業が引き継がれる

そして6月下旬から7月上旬の「御養蚕納の儀」で締めくくられることになる。昨年は約160キロの繭を収穫した。この繭で紡がれた絹糸から布が織られ、宮中祭祀などで供えられる他、文化財の修復などにも使われる。来年4月末の陛下のご譲位により、皇后さまの作業は今年が最後になるという。その状況を受け、10日に宮内庁は、来年5月に新皇后となられる雅子様に、養蚕作業が引き継がれることを明らかにした。

皇室と養蚕とのつながりは古い

皇室と養蚕とのつながりは、古くは『日本書紀』(720年)の雄略天皇6年(462年)3月7日に、「后妃をして親(みずか)ら桑こかしめて蚕の事勧めむと欲す」という記述がある。それはもともと、周〜漢代にまとめられたとされる中国の『礼記』の中に、「季春之月、后妃斎戒、親東向桑、以勧蚕事」と記されているように、春季に后妃が行った農事関係祭祀だった。 

また、『万葉集』(759年以降成立)巻20では、天平宝字2年(758年)1月3日に行われた、農耕と養蚕の豊作を祈る祭祀の後、孝謙天皇は宴の席で宮人らに歌を詠むように命じた。しかし撰者の大伴家持はその折、その行事を取り仕切っていたために忙しく、人々が詠んだ歌を手に入れることができなかった。そして自ら、

     初春の初子(はつね)の今日の玉箒(たまはばき)手に取るからに揺らく玉の緒
    (初春の初の子(ね)の日である今日、いただいたこの玉箒(繭玉を飾ったほうきのこと)を手にした途端に、妙なる音を立てる玉の緒です)

と詠んだ。

皇室で養蚕が始まったのは明治4年

皇室で正式に養蚕が始まったのは、明治4年(1871年)、昭憲皇太后が吹上御所内で過去の神事を復興されてからである。それは、安政6年(1859年)に日本の鎖国政策が解かれ、横浜・長崎・函館の開港に伴って、外国との貿易が始まったことと深い関連がある。開国後の日本からの輸出品の大部分が生糸・茶・蚕種(さんしゅ、蚕の卵のこと)で占められており、特に生糸は最大の輸出品だった。それゆえ養蚕は文明開化期の日本において、殖産興業・外貨獲得のために欠かせない一大産業だったのだ。こうしたことから、「ハイカラ」な国際港・横浜を支えていたのは、神奈川の諸地域における養蚕業だったと言っても過言ではないだろう。

養蚕とは具体的になにをする?

そもそも養蚕とは、蚕を飼い、繭を生産する一連の作業であり、餌となる桑の栽培も含むものである。

蚕とは、鱗翅目(りんしもく)カイコガ科に属する昆虫で、正式名称は家蚕(かさん、Bombyx mori)である。繭の生産に利用される蚕は、卵からかえった後に4回幼虫脱皮する。その後、十分太った蚕(熟蚕)は餌を取るのを止めて、繭をつくるための足場を探し始める。そこで飼育者は蚕を蔟(まぶし)と呼ばれる専用の器具に入れる、その後、蚕は糸を吐き、繭をつくり始める。それまでに大体25〜28日かかる。3日前後で蚕は繭をつくるのを止め、蛹(さなぎ)になる。更に10〜12日後で蛾となり、卵を産む。この一連の蚕のライフサイクルは、最短で50〜55日だ。

神奈川県と養蚕とのつながり

神奈川地域における養蚕だが、寛文(1661〜1673年)頃、信州で製造していた蚕品種が相模・武蔵地域にもたらされていたことがわかっているものの、具体的にそれがどの地域で飼育されていたかはわかっていない。江戸時代においては、幕府がたびたび豪奢を禁じ、絹布の使用を制限したため、養蚕業の発達が阻害されていたが、幕末期の安政2年(1855年)以来、イタリアやフランスからの養蚕需要が高まってきたため、神奈川の各地で競って蚕の餌となる桑を植え、蚕を育てるようになっていった。

養蚕業が栄えた神奈川県

西欧諸国で蚕が多く求められるようになったのは、フランス・プロヴァンス州で1840年に発生した、蚕の微粒子病がきっかけだった。病はフランス全土に広がり、1847年には、イタリア・ロンバルディア州に至り、1852年には欧州全土を覆い尽くした。その結果、生糸の原料不足が深刻な問題となった。また、生糸の巨大輸出国であった清国では1856年、イギリス・フランスとの間に、アロー戦争が勃発し、上海貿易が停止してしまった。そこで欧州が目をつけたのが、日本だった。

しかも日本産の生糸が初めてロンドン市場に出た時、その品質の良さと値段の安さが好評を得た。そこで西欧の商人たちはこぞって、開港間もない横浜に殺到した。

こうしたことから、神奈川地域内の横浜で養蚕業が明治期以降、本格的な繁栄を見たのである。

どれくらい栄えていた? 蚕を弔い祀るために供養塔を建立

統計資料が残っている1880年(明治13年)には、神奈川の養蚕農家は3万6545戸だった。そして翌年には4万戸を超えた。1883年(明治26年)に南多摩郡・北多摩郡・西多摩郡が東京に編入されたため、一時的に大きく減少したが、1901年(明治34年)には4万戸台に戻り、ピークを迎えた。

だが、当時の養蚕業はまだ、自然の成り行きまかせだった。凍霜(とうそう)害・風水害などの自然災害の影響を受けやすく、蚕のみならず、餌となる桑の葉も被害を受け、飼育不可能に陥ることが多々あった。それゆえ、「文明開化」の真っ只中にあったとはいえ、蚕の祟りを恐れた地域の人々は、犠牲となった蚕の霊を慰めるための慰霊塔・供養塔を建立し、丁重に祀り、豊作を祈っていたのである。

例えば、横浜市泉区上飯田町840番地にある三柱(みはしら)神社には、蚕の霊を弔うために、明治29年(1896年)に建立された「蠶靈(かいこれい)神鎭

衰退していった養蚕業

神奈川における養蚕業自体は、何度も低迷の危機を迎えていたが、日露戦争(1904〜1905)後の明治末期、第1次世界大戦(1914〜1918)後の大正初期、そして昭和初期に盛り返し、地域の主要産業のひとつとなっていた。しかも、第2次世界大戦宣戦布告前夜の1939年(昭和14年)には、当時の横浜市産業部農政課がまとめた資料においては、「農村に與へられたる生産業は主として米と繭である」として、「海外より戦時資材の輸入の為、輸出振興による外貨獲得はゆるがせに出来ぬ事であつて、資源に乏しい我國に於て、蠶絲業の存在は天惠と云つてよい」と、養蚕業の更なる興隆が期待されていた。しかし、戦時色が強くなっていくにつれ、軍事産業への傾注、農作業の労働力となる働き盛りの男性が徴兵されてしまったことなどによって、神奈川地域の養蚕業は廃れてしまい、現在に至っている。

そもそも慰霊碑や供養塔に祀られた「蚕神」は、蚕の霊ばかりではなく、『古事記』『日本書紀』などにおける日本の神話・伝説に基づいたもの、仏教思想に基づいたもの、神仏習合によるもの、土俗の風習や中国の儒教の影響を受けたもの、応神天皇(4世紀末〜5世紀初頭)の時代に、日本に蚕糸や織物、そして機織(はたおり)の技術をもたらした秦(はた)氏などのような、中国や朝鮮半島からの渡来人を祖神とするもの、そしてこれらの神々を全て総称したものなど、日本人の宗教観や信仰心を反映した、融通無碍な「神さま」だった。

供養の対象となってきたのは蚕だけではない

養蚕業が明治期ほど栄えていない今日にあっては、「蚕霊」「蚕神」が日本人の心の中からすっかり忘れ去られてしまっていることは否めない。今現在日本国内でさかんな産業を挙げるとしたなら、ITビジネスだろうか。例えばApple社のスティーブ・ジョブズが神として祀られるとか、古くなって廃棄せざるを得なくなったパソコンやスマートフォンの「霊」を祀る塚が建立されることがあるのか。現代の我々と、蚕の霊を祀った明治の人々とは、もはや態度や考え方が全く違ってしまっている。とはいえ、我々は温故知新ではないが、今現在における「最先端」の産業や機器を切り開いた人物への敬意、そして機器そのものに対する感謝の念を、決して忘れてはならないと言えよう。

参考資料

■横浜市教育委員会(編・刊)『横浜市文化財調査報告書 第十八輯 泉区石造物調査報告書』1989年
■横浜市総務局市史編集室(編)『横浜市史 Ⅱ 資料編 2 昭和十四年版 横浜市農政概要』1991年 横浜市(刊)
■坂本太郎・家永三郎・井上光貞。大野晋(校注)『日本書紀 3』 1994年 岩波書店
■泉区小史編集委員会(編・刊)『泉区制十周年記念 いずみ いまむかし −泉区小史』1996年 
■板橋春夫「養神」福田アジオ・新谷尚紀・湯川洋司・神田より子・中込睦子・渡邊欣雄(編)『日本民俗大辞典 上』1999年 (301頁)吉川弘文館
■佐藤広「養影」福田アジオ・新谷尚紀・湯川洋司・神田より子・中込睦子・渡邊欣雄(編)『日本民俗大辞典 上』1999年 (611頁)吉川弘文館
■板橋春夫「養蚕」福田アジオ・新谷尚紀・湯川洋司・神田より子・中込睦子・渡邊欣雄(編)『日本民俗大辞典 下』2000年 (770頁)吉川弘文館
■三橋淳(総編集)『昆虫学大辞典』2003年 朝倉書店
■小泉勝夫(編・刊)『養蚕業史 蚕糸王国日本と神奈川の顛末』2006年
■榎一江「養蚕」安田常雄・白川部達夫・宮瀧交二(編)『日本生活史辞典』2016年 (672頁)吉川弘文館
■柏田雄三『虫塚紀行』2016年 創森社
■佐竹昭広・山田英雄・工藤力男・大谷雅夫・山崎福之(校注)『原文万葉集 下』2016年 岩波書店
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ライター

鳥飼かおる

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