仕事というものは、人と関わらずにはいられない。何をするにも、社会を動かしているのはたくさんの人である。たとえ一日中机に向かうような仕事であっても、それをチェックするのは人であり、人にみせるためのものだ。何を当たり前のことを。と思うかもしれないが、大体の人はこれにあてはまる中、不思議な立ち位置の職業がある。それは人の死と関わる仕事だ。医療や警察、裁判に関わっているひとは言わずもがな、さらに特殊な仕事が存在する。
納棺師 湯灌師 おくりびと
この職業は比較的有名だろう。映画「おくりびと」としてこの職業は映像化され、より世間に知られるようになった。別名湯灌師とも言われる。納棺師は、遺体を火葬するまでの状態を維持し、白装束を着せ、髭があれば髭を剃り、男女問わず化粧をする。遺族や葬式の参加者により安らかな故人を見てもらって、別れの覚悟をしてもらうためだ。納棺師になるのに、特別な資格はいらない。専門学校はあるものの、必要とされるのは遺体を整え納棺する技術だけだ。
エンバーマー
エンバーミングとは、遺体の防腐処理のことを指す。日本では火葬が一般的であるため、火葬するまでに遺体の状態は悪くならないよう、最低限の防腐処理で済むが、海外には土葬の文化も存在する。土に埋めると言っても、ただ埋めるだけでは遺体は腐り、どうしても臭いが心配されるだろう。まず、エンバーマーは土葬される前の遺体を洗う。これは感染症を予防するためだ。その後、遺体から血や胃に残った残留物等を抜き、防腐剤を注入する。そして損壊した箇所があれば塞ぎ、くっつける。そして衣服を着せ、納棺する。
国際霊柩送還師
聞き覚えのない職業だろう。国際霊柩送還師は海外で死亡した日本人の遺体を、遺族の元へ送り届ける、場合によってはその後必要になる葬儀会社の斡旋もしている。2003年、日本初の専門会社としてエアハース・インターナショナル株式会社された。海外で亡くなる日本人は年間500~600人と言われている。海外で日本人が亡くなった場合、現地の警察または病院から現地にある日本大使館に連絡が届き、日本大使館から遺族に連絡がいく。インフラや医療が発達している国であれば、例え遺体であってもそれなりの防腐処理などを施されるかもしれないが、時にはよそ者の遺体として、良くは扱われない場合もあるだろう。そして海を渡って遺体を運ぶ際に遺体に何らかの損壊が起こるかもしれないし防腐処理が十分に施されておらず、腐敗が進んでしまっている場合もあるという。そんな遺体を遺族にそのまま会わせないために、国際霊柩送還師はエンバーミング処理も請け負っている。
動かない人と関わる
いずれの職業も非常に求人が少なく、入社してすぐにやめてしまう人も後を絶たない。遺体と遺族との板挟みの関係も想像を絶する。遺体に感情移入しすぎることもあるだろうし、遺族に対して常に厳粛に振舞う必要があるからだ。人工知能が発達し、職を奪われる心配のある職業は増えていき、すでにコンピュータに処理を任せてきっている職業も存在する中、この特殊な彼らの職業は取って変わられることはないだろう。涙を流せない機械には、決してできないことだからだ。