着物の前合わせについて、「左前は死者の着方」ということはご存じでしょうか。今や常識と言われているので着方を間違えると笑われてしまうことも…。この死者が「左前」が常識になった云われはいくつかの理由があるのでご紹介していきます。
左前は死者が身にまとう着物「経帷子」が由来
亡くなった人が最期に着る着物がありますが、それを経帷子(きょうかたびら)と言います。
仏式の葬儀で使われ、棺の中に入るときにこの経帷子を着せるのです。経帷子の着せ方は【左前】で、生きている人の着方ではないため、【死人前】と呼ばれ、早死、縁起でないと忌み嫌われている訳です。そしてこれがいつからか常識になり、着方を間違って【左前】にしてしまうと「非常識だ」と思われてしまうようになりました。
芸能人でも間違った着付けをした写真をSNSで掲載してしまい、世間から叩かれているのをたまに目にします。確かに理由を知っていると良い気持ちにはならない人が多いのかも知れません。
死者が身につける経帷子を左前にする3つの理由
まず一つ目ですが、奈良時代に衣服令(えぶくりょう)という服に関する法律が定められました。その中で「庶民も貴族も着物は右前に着るように」と決まっていたそうです。
また、奈良時代の庶民はぼろぼろの着物を着ながら農作業をするなど生活がとても貧しかったそうです。そのため、次は今とは違った生き方ができますようにと亡くなった人の着物を左前に施すようになったのではないかと言われています。
二つ目は、あの世とこの世は全く逆の世界だと思われていたためです。葬儀の際によく使われる「逆さごと」というものがあり、逆の世界だから、今生きている人とは違う区別を付けたかったのかと思われます。生きている人は右前だから、亡くなった人は左前に着せてあげようと考えた人がいるんですね。
三つ目は、仏教の教祖であるブッダが亡くなったとき、着物を左前にしていたとの説です。そのため、亡くなった人に対してブッダと同じようにしてあげようと思ったのかも知れません。
左前は死者の着方
私も着物の着方を間違えた経験がありますが、その当時は「どっちが前だろうが、そんなに人の着物をジロジロ見る人もいないだろうに」と思っていました。しかし、理由があるから「右前が常識」なのです。着物も着る機会がなかなかないので次に着るとき、どちらが正しいのか忘れてしまいそうですが、「左前は亡くなった人の着方」だと言うことは覚えておきたいものです。