厚生労働省が発表した新オレンジプラン(認知症対策)によれば、2012年では、日本人の7人に1人が認知症患者であるとされていた。同プランにおいて、最悪の場合だと2060年には、日本人の3人に1人が認知症となると予測されている。同プランを見ると、誰もが認知症を発症する可能性を持っていると言えるのかもしれない。そう言った状況を相続に絡めてみると、かなり深刻な問題になり兼ねないと思われる。
被相続人と相続人のそれぞれが認知症であった場合の問題
では、実際に相続と認知症はどう関係しているのかと言うと、二つのパターンが挙げられる。一つ目は、被相続人が生前認知症患者であった場合だ。二つ目は、相続人の誰かが認知症患者であった場合だ。
被相続人が生前に認知症患者であった場合、被相続人が作成した遺言書が法的に有効か否か。生前に締結した各契約が法的に有効か否か。という問題が発生する。これは、正常な判断能力を欠く者が行った法律行為(売買契約等の契約や贈与と言った行為そのものが法的効力を持つ行為のこと)は無効とされることに起因する。認知症ならば、症状にもよるが判断能力を欠くと見做される。こうなると、確実な証拠が残っていて全ての行為が明確に証明できたとしても、行為が行われた時点にまで遡及し、全ての法的効力が無効即ち無かったことになってしまうのだ。売買契約ならば、契約を締結した時点まで遡及し、契約自体が無効となる。当然、金員を受け取っていれば返金しなければならないし、購入した物があれば元の持ち主に返却しなければならなくなる。また、生前に行っていた相続税対策は全て無効となってしまう可能性が高くなるのだ。
相続人の誰かが認知症患者であった場合、成年後見人を設定して法律に則った手続きを踏めば特に問題は無い。
最も問題なのは被相続人が認知症であった場合
大きな問題となるのは、やはり被相続人が生前認知症患者であった場合である。解決するためには、後見制度を利用する方が合理的だと考える。後見制度には被相続人の家族や弁護士が任意契約にて後見人となる任意後見制度と、家庭裁判所が後見人を任命する法定後見制度がある。また、被相続人に判断能力がある場合(専門医の診断が必要)ならば、家族信託を用いるのも有効な対策となり得る。何れにせよ、一番有効な解決策を見出して対応するのが最も効率的ではあるが、認知症に罹患する前、若しくは罹患しても充分な判断能力を有する時点で専門医並びに弁護士や税理士等の専門家と相談しつつ対策を練っていくべきであろう。
誰もが認知症に罹患する可能性を有する以上、避けて通れない。問題を正面から捉え、確実に解決できるようにすれば、相続の円満解決に繋がるはずである。