今年の五月、筆者の知人夫妻が子供を授かった。結婚後から授かるまでの期間が長期に渡った為、知人夫妻の喜びも一入であり、筆者も大いに祝福させて頂いた。その際に件の知人からお腹の中に居る赤ちゃんには、相続権は有るか無いかとの質問を受けた。回答は有るとも言えるし、無いとも言えるのだ。今回は、胎児と相続税について綴ってみたい。
胎児でも相続権は有するが、行使できるのは出産後
相続権とは人が亡くなった際、亡くなった人の財産等を相続する権利のことを言う。相続権を有するのは相続人と呼ばれ、亡くなった人は被相続人と呼ばれる。では、母親の胎内にいる胎児には、相続権が有るのかと言うと有ると言える。これは、民法第886条1項の規定により「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。」となる為だ。つまり誰かが亡くなった時(相続が開始された)に、母親の胎内に居た胎児は、その時点で生まれたものとみなされるからだ。
しかし、である。前述に無いとも言えるとしたのは、民法第3条1項に「私権の享有は、出生に始まる。」と有るからだ。早い話が、相続権を含む全ての権利は、生まれないと発生しないということになる。矛盾しているが、民法上の規定であり相続税法も民法に準拠する為、相続の手続き上問題を抱えている。因みに、民法第886条2項には「前項の規定(1項のこと)は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。」と有り、死産の場合、相続権は発生しない。
死後、相続税の申告期限に間に合わない場合は延長申請が必要
手続き上の問題とは、実際に相続の手続きが開始されるのは、出産してからとなる為、被相続人が亡くなった時から実際の手続きが開始されるまで、タイムラグが発生することだ。相続税の申告期限(十ヶ月間)に間に合えば問題無いが、もし間に合いそうも無いと判断出来る場合、税務署に相続税申告期限の延長申請をすれば、特別な事情に該当するものとみなされ(相続税法第27条他)るので、二ヶ月間のみ申告期限を延長して貰える。但し、若干の延滞税が加算されることに留意されたい。
判断力のない赤ちゃんには特別代理人を選任することが一般的
出産後はどうなるかと言うと、前述のとおり死産でなければ正式に相続人となり、相続が開始され、遺産分割協議が行われる。だが、生まれた直後の赤子だと状況判断はおろか意思表示も不可能だ。こう言った場合どうするのかと言うと、「特別代理人」を選任し、遺産分割協議を行うことになる。この制度は遺産分割の公平性を確立させる為、両親特に母親に赤子が本来得られるべき利益を独占させないことが目的の制度である。「特別代理人」は、相続権のない親戚か第三者が選任可能とされているため、慎重に選任した方が良いだろう。
「特別代理人」の選任を含み、相続に関する様々な問題や疑問は、自分達だけで悩まずに税理士や弁護士等の専門家に相談し解決していって欲しい。