筆者が税理士事務所に勤務していた時、相続に関する実に様々な相談を受けた。
即答できないものもあったし、結果的に何のお役にも立てなかったこともあった。共通しているのは、何で早く言わないのだ…ということである。つまり原因は、事後になって発覚したか、現実を突き付けられ慌てて相談にきたからこうなったからなのだ。
特に被相続人が生前に必要な手を一切打たず、突然亡くなったために相続人達に大きな負担がかかってしまったことがある。今回はこの件を綴ってみたい。
お金を趣味に注ぎ込んだ
M氏は大のゴルフ好きだった。趣味が高じて自宅の一室をトレーニングルームにリフォームして早朝トレーニングに勤しみ、地方のアマチュアゴルフトーナメントに参加し優勝する等完全に入れ込んでいた。定年退職後は毎日ゴルフ場に通いプレーを楽しんでいた。
ある日、既に常連となっていたゴルフ場のオーナーから会員権の取得を勧められたM氏は、二つ返事でゴルフ会員権を1000万円で購入。更にゴルフに入れ込んでいくことになった。
友人知己も増え、ゴルフが趣味を超え生甲斐となっていた矢先、M氏は突然の病に倒れ、そのまま亡くなった。あまりにも突然であったが、相続の手続き並びに税務署は、M氏やその親族達の都合など一切関係なく、待ってはくれない。M氏の相続人達は、大慌てで筆者が勤務する事務所に相談にきた。そこで問題が発覚したのだ。
ゴルフ会員権は課税対象となる財産
その問題とは、ゴルフ会員権だ。
筆者はゴルフをしないので、全く興味はないのだが、ゴルフ会員権も立派な相続財産だ。取得価格の70%程度で評価される。M氏の場合だと、1000万円で購入したゴルフ会員権の相続税評価額は、700万円となる。そしてここからが本当の問題だった。
相続人達はゴルフには筆者と同じく一切興味がなく、邪魔となったゴルフ会員権を即座に売却して現金化し、相続税の納税資金に充当するつもりだった。しかし、M氏は当然ながらゴルフ会員権の名義変更をしていなかった。これにより会員権を売却するには、相続人達の誰かに名義を変更しなければ売却できなくなったのだ。
更に、売却する場合には多額の手数料が発生する。安い場合だと20~30万円で済むが、人気の高い有名なゴルフ場だった場合には手数料だけで数百万から1000万円する。M氏の場合も150万円位だった。相続税の納税資金の調達ができず、更に150万円の出費を強いられたM氏の相続人達は憤りを隠そうともしなかったが、何を言ったところで手遅れであり、結局は土地を担保として銀行から融資を受け、融資を受けたお金で納税を済ませた。勿論ゴルフ会員権も同時に売却したのだった。
事前に課税対象となるか否かをしっかり把握しておくことが重要!
この話でポイントとなるのは、事前に財産について家族全員で把握しておくこと。そして、相続人達がその財産について、将来的に要か不要かを判断し、不要ならば売却する等処分を検討しておくことだ。
ゴルフ会員権だけではなく、売却時に手数料が必要になる財産もある。事前に調査し、把握しつつ対策を練ればいざというときに慌てずに済む。事前の対策が非常に重要であることを理解すれば、相続を恐れることはない。じっくりと対応してくべきだ。