日本人はお餅が大好きだ。
お正月にお餅をつき、子どもの誕生や成長を「一升餅」「餅踏み」「背負餅」などで祝う。
そしてもちろん、この世を去る時にもお餅は欠かせない。
お葬式や法要に使われるお餅の種類は地方によって違いがあり、そのしきたりも様々であるが、今回はその中から「四十九餅」について紹介したい。
四十九餅とは何か?
四十九餅の習慣は地方やお寺の宗派によって大きく異なる。
だが、概ね共通しているのは人が亡くなって四十九日を迎える間(中有)に作られる事だ。仏教では、この間に故人は生前の行いを閻魔大王によって裁かれ、六道(天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道)のいずれに行くかを決められるとされる。
四十九餅はこの間に故人を支える食料とされることもあれば、故人に罰を与える地獄の鬼に捧げるものといわれる場合もある。
しかし、この餅の習慣は仏教の教えから来たものではなく、インドの古い儀式に由来する。
インドには古来「ピンダ」という死者に餅を捧げる習慣があり、これによって死者は先祖の位まで到達できるといわれる。四十九餅のルーツはこれが密教を通じて日本に伝来したものなのである。
文字通り、餅は四十九個作る?
四十九餅はその名の通り、49個作られる事が多い。
しかし、宗派や地方によっては50個作る、という場合もありこのプラス1個には様々な意味がある。
まずは、親しい者が兄弟同士で引っ張り合って餅を食べる「兄弟餅」に使われる場合。
これは、この世での「食い別れ」の儀式の一つであり、故人とのこの世での最後の食事を意味し、安らかな往生を願うものである。
しかし、青森県などにはこの引っ張りあった餅を背中合わせになって投げる「ヤシキモチ」や「引き合い餅」と呼ばれる習慣が存在する。
さらにこの場合、投げた餅に当たると縁起が悪いとも言われ、地方によってはこの行為を「兄弟餅」と呼ぶ事もある。
投げた餅には死者の荒魂を去らせる意味や、墓に群がってくる餓鬼(霊鬼)に振る舞ってやる、という意味があり、鬼どもには投げて与える事が適当だからだとされる。
お餅で作る人型は一体誰?
四十九餅は「忌明け餅」や「笠餅」とも呼ばれる。
笠餅と呼ばれるものの場合、餅は49個の小さな餅に加え、大きくて平らな餅も1枚作られる。(小さい餅の数は48個、50個の事もある)
この大きな餅は小さな餅を積んだ(49個なら7×7で)上に笠のように被せられ、この形でお寺の祭壇に納められる。
そして、法要が終わった後にお坊さんに説明を受けながら、包丁で人の形に切っていただく。
切った餅は傘を被った人物の形にされ、これが杖を突いたり念珠を持った姿にされる事もある。
宗派によってはこの人型は僧侶やあの世へ向かう故人の姿とされるが、日本の密教の大本である真言宗では「修行大師(修行者姿の弘法大師)」の姿とされている。
この餅は故人が旅に出たこととして玄関から外へ投げてしまう場合もあるが、逆に食べると体の悪いところが良くなるといういわれもある。
食べる場合は人型に切った手や足など、自分の身体の良くしたい部分を持ち帰っていただく。
消えゆく四十九餅
かつて四十九餅の習慣は盛んに行われていた。
故人の四十九日の頃には必ず餅つきが行われ、また四十九餅を名物として餅屋が繁盛していたという。
しかし、現代ではこの習慣は簡略化されていたり行われない事も多く、
筆者も「四十九餅」と書かれた丸い餅が香典返しの中に入っているのを見るまでこの習慣については全く知らなかった。
日本人の一生は餅に始まり餅に終わると言っても過言ではない。
故人を偲ぶ大事なしきたりとして、また日本の大事な食文化として守り、伝えていきたいものである。