今年の一月、お世話になった長野・佐久地方の知人のご葬儀に参加した。その際、香典返しでいただいたのが「御黒飯(おこくはん・ごこくはん)」なるものだった。お赤飯ではなく、御黒飯。蓋を開けてみると、黒豆が入ったほんのり甘いおこわが入っていた。
埼玉県出身の筆者は知らなかったが、佐久地方のお葬式ではこの御黒飯はよく出されるものらしい。さらに長野だけではなく、他の地域でも広く食べられているものだという。一体、この「御黒飯」は全国的にどのような分布をしているのだろうか。お赤飯・御黒飯の用途の違いと併せて調べてみた。
御黒飯は弔事 お赤飯は慶事
主に御黒飯を食べるのは長野県や北海道、東北地方や北陸の石川や富山、関西の一部、また千葉県などにも同様のものがあり意外にも全国各地にその文化がある。
御黒飯を食べる地域では、お赤飯は慶事、御黒飯は弔事のものとされる。
しかし、福井県や静岡県などには葬儀や法事の際にお赤飯を食べる地域が存在する。これは「赤飯供養」とも呼ばれ、御祝いの為ではなく、死者の供養のためにお赤飯を食べる風習である。これには小豆の赤い色が邪気を払うとされたとする説や、そもそも本来のお赤飯は良くない事が起こった時に食べるものだったとする説などがある。お葬式にお赤飯が出てきたらびっくりしてしまう人もいるだろう。しかし、お赤飯はめでたい席でしか食べてはいけないものとは限らないのだ。
御黒飯のルーツや別名は?
御黒飯には地域によって呼び方や作り方に違いがあり、白蒸し・しろぶかし(兵庫・関西圏)、みたま(石川・富山)などとも呼ばれている。(ただし、白蒸し・しろぶかしには同名で黒豆が入っていないものもある)
北海道では御黒飯が広く食べられているため、発祥は北海道なのではないか、といわれる場合もある。だが、他の地域でも同様の物が存在するため、恐らくは蝦夷地の開拓時代に入植者が持ち込んだ文化と思われる。
またお隣の中国には、めでたい婚礼を「紅事」、死者を悼む葬儀を「白事」とする文化がある。日本もかつては白を葬式の色としており、現在のように喪服に黒を着るようになったのはキリスト教の影響を受けたものである。
葬式にお赤飯を避け、白いおこわの御黒飯を食べる習慣はこのような文化から影響を受けて発生してきたものなのかもしれない。
御黒飯の炊き方・作り方・レシピ
地域によって作り方は違う場合もあるが、お赤飯は一般的にもち米に小豆やササゲなどの豆の煮汁を染み込ませ、紅く炊き上げられる。御黒飯の炊き方もお赤飯によく似ているが、煮汁は捨ててしまうためご飯に色は着かない。本来はまず、黒豆を軟らかく煮てからもち米と一緒に炊く。だが、一から固い黒豆を煮るのは多くの方がご存じのように時間も手間もかかり、とても大変だ。時間がない方にお勧めしたい御黒飯のお手軽な炊き方は以下の通りである。
<御黒飯の炊き方(炊飯器)>
*材料
黒豆(ドライパック、煮豆、缶詰などお好みの味で調理してあるもの)…煮汁なしで120g
もち米…2合
酒…小さじ1
塩…小さじ1/2(お好みで味は調整する)
水…炊飯器の目盛りに合わせる
*作り方
(1)もち米を洗い、ザルで水を切っておく
(2)炊飯器にもち米、酒、塩を入れて「おこわ」の2の目盛りまで水を入れる
(3)黒豆を入れ、「おこわ」のコースで炊く
(4)炊き上がったら蓋を開け、黒豆をつぶさないようにさっくりと混ぜる
(5)熱々より少し冷めた方が美味しい。お好みでごま塩、紅ショウガなどを添えていただく
最後に…
お葬式で出される料理にはその地域によっていろいろな特色がある。そして中にはある地域の人はメジャーなものだと思っていても実は他の地域の人は全く知らない、というものも存在する。御黒飯はその代表といえる。
「お葬式には御黒飯」という文化で育った方が引っ越し先の仕出し屋さんに法事の料理を頼んだ際「御黒飯って何?」と言われてしまい驚くケースもあるようだ。特に、関東の人間にはお赤飯と対を成すこの「御黒飯」を知らない者が多い。しかし、葬儀で使う御黒飯の掛紙(包み紙)は現在ネットでも販売されており、中身も今後全国区になってゆく可能性がある。
お葬式に御黒飯の出る地域では、お赤飯よりも御黒飯のほうが好きだという人も多い。次の法事に、この意外な美味しさでご先祖様をちょっと驚かせてみてはどうだろうか。