日、故人のお宅で行われたお葬式に参列したら、仏式ではなく神式の葬儀だった。
仏壇の前で袈裟懸けのお坊さんが木魚を叩き、お経を唱える形ではなく、烏帽子に袴姿の神職がお祓いをして祭祀を奏上した。部屋には雅楽が流れ、質素ながら厳かで故人が偲ばれ、いつもの葬儀よりも印象に残った。
家族葬や友人葬など多様化した葬儀の中で、神葬祭も選択肢の一つ
昔から葬儀と言えばほとんどの人が仏式の葬儀を思い浮かべるはずである。だが最近では、葬儀のスタイルも多様化し、本人の希望に沿った形で家族葬、一日葬、友人葬、変わったところでは本人も参列する生前葬まで可能になっている。そんな中、今まであまり注目されてこなかったが、日本人の心の拠り所ともいうべき神道に則った葬儀形式がある。それが神式の葬儀(神葬祭)である。
都市化した現代社会では、進学、就職を機に故郷から離れて、別の土地に生活基盤をおき、家族を作り、一生を終える人も多い。
このような人々は、先祖代々の墓に入らず、自分で霊園にお墓を買う人も多いから、檀家制度や宗派の問題からは比較的自由である。そうなると神葬祭も一つの選択肢であり、今後は増えてくると思われる。
仏式葬儀とは違う神葬祭
神葬祭と仏式葬儀との違いはいろいろあるが際立った違いを挙げると、
まず、神葬祭の場所は、斎場や自宅に限られ、神社自体は場所を提供してくれないことである。これは、神社は神様の鎮座する聖域であり、神道では死は「穢れ」として忌まれているからである。
式次第では、焼香、線香はない。また、数珠は仏教特有の法具であるから、使わない。
その代わりに「手水の儀
、「玉串奉奠(たまぐしほうてん)」というものがある。前者は御神水で手と口を清めることである。後者の玉串とは、榊の枝に白和紙の飾りをつけたものであるが、これを奉って拝礼する。
拝礼の仕方は神社でお祓いを受けた経験がある方はわかると思うが、あれとほぼ同じである。玉串を神棚にお供えして二礼二拍手一礼をすればよい。ただし、ここで拍手を「パン!パン!」と音を立ててはいけない。「しのび手」といってそっと手を合わせるだけにするのがルールである。
神葬祭では、戒名ってどうなるの?
この他忘れてはいけないのが戒名である。戒名にはランク付けがあり(○○信士、○○居士等)、そのランクによって値段が異なるのである。基本的にはお金を出せば高いランクの戒名をもらえることになっている。値段は宗派によっても異なるが、高いものでは100万以上のものもあるようである。いずれにせよ無料ではつけてもらえない。
これに対し神式では戒名というものは無く、神様になるための諡名(おくりな)をつけてもらう。神話に出てくる大国主命、須佐之男命のように「○○○○命」となる。諡自体のランクはなく平等であり、値段もタダである。
僧侶、神職へのお礼については仏式では「お布施」として渡すことになるが、戒名料と読経料を合わせて最低でも25万くらいはかかるとみておいた方がよい。神式では「祭祀料」として渡すが、戒名料に相当するものが無いので、一般的にお布施より低額ですむことが多い。
守護神として家を見守り続ける神道
檀家制度のもと、日本人は当たり前のように仏式の葬儀を営んできた。しかし、歴史上は神道式の葬儀は仏教が広まる以前から存在した。皇室だけが葬儀を神式で行うわけではなく、一般の神社でも取り扱っているところは多い。
仏教では人は死んだら仏様になり、あの世(極楽浄土)へ行ってしまうのであるが、神道では死んだら神様となり家の守護神となる。残された者も毎日近くで見守っていてくれる守護神の方に親しみがわくような気がするが、皆さんはどう思うであろうか?