昔々あるところに貧しいながらも心優しいおじいさんとおばあさんが暮らしておりました。
雪の吹雪く大晦日の夜、笠を売りに出たおじいさんは、帰り道に裸のお地蔵さまを見つけるなり、笠を被せてやり、そのまま家路に着きました。
年を越した正月の朝、玄関にはお餅や正月飾りなどが置いてあり、歩き去るお地蔵さまの姿が見えたのでした。
赤い頭巾と前掛けのイメージが強いお地蔵さま
これは誰もが知っている日本昔話の一つ「かさじぞう」である。良い行いをすると良いことが返ってくる、そんな陰徳陽報を表す有名なお話である。このお話のキーパーソンはタイトルにもなっているお地蔵さまであるが、このお地蔵さまは日本各地至る所で祀られている。
私は週に一度、家の近くのお寺にお参りしているが、お寺の入り口には小屋に入った六体のお地蔵さまと、そのすぐ脇にもう一体のお地蔵さまが祀られている。この計七体のお地蔵さまは皆赤い頭巾に赤い前掛けというお揃いの装いである。恐らく皆さんが頭で思い描くお地蔵さまも、同じ姿をしているのではないだろうか。
子供と縁が深いお地蔵さま
「地蔵菩薩」ーーこれがお地蔵さまの正式な名前である。
「菩薩」の名前からも察せられるように、数ある菩薩の中の一つに数えられている。お釈迦さまが入滅し、次の新たな釈迦如来が誕生するその時までの世の中を救う存在が地蔵菩薩であるとされている。
そんな大役を担う地蔵菩薩は弱い立場の者から救うと考えられていることから、幼くして亡くなった子供や水子(流産などで産まれる前に亡くなってしまった子供)など、子供と縁の深い仏様とされているのである。
赤い頭巾と前掛けは幼子の装いを想起させる
江戸時代に入ると賽の河原の物語が流行し始める。賽の河原の物語とは、幼くして亡くなった子供が徳を積むために賽の河原(三途の川の岸辺)で石を積み上げる。しかし、そこに鬼がやってきて折角積み上げた石を崩してしまう。そこに地蔵菩薩がやってきて子供たちを冥界へと導いて行く。そんなお話が江戸庶民の間に流行し、「地蔵菩薩=子供の仏」というイメージが付いたのである。
そこで思い浮かべていただきたいのは地蔵菩薩、つまりお地蔵さまの格好である。前述した頭巾に前掛けという装いは正に子供の格好そのままではないだろうか。更に「赤」という色も子供を表している。幼子を表す言葉に「赤ちゃん」や「赤ん坊」、また赤は太陽を表し、生命の起源を、さらに迷子になりやすい子供がしっかりと黄泉の国へと行けるように目印としての赤など、現在ではその赤色について様々な解釈がなされている。
最後に…
昔話や賽の河原の物語、さらには有名アニメ映画にもお地蔵さまの前で姉妹が雨宿りをするシーンが描かれているなど、子供と非常に縁の深いお地蔵さま。お寺に参らずとも会うことのできる最も身近な仏様、それが地蔵菩薩である。きっと皆さんが暮らす街にも、赤い頭巾に赤い前掛けをして、ぽつんと佇んでいると思う。いつも通り過ぎてしまうところをほんの少しだけ立ち止まって、幾つもの物語を跨ぐお地蔵さまに手を合わせてみてはいかがだろうか。