私の住んでいる東京都の区には、無料相談でできる生活に関する部署がいくつかある。
その中で相続に関することで知人が相談をした。
区役所が紹介してくれた弁護士に相談
夫は3年前に亡くなり子供もいない一人暮らし。大腸がんを患い、ほかにもいろいろの病気を持っていた。
遠い親戚に姪がいるとのことだが、会ったこともない姪に相続させる気はない。
そこで、どうしたらいいかと相談に行った。
そこで、何人かの同じ区に住む弁護士さんを紹介してくれた。それでは同じ町会に住む人がなにかと便利だろうと、町会内に住む弁護士に相談にのってもらうことにした。
文末に書かれた「弁護士報酬300万円」
知人は少し耳が遠く、糖尿病の影響で視力もおぼつかない。しかし、弁護士の指導のもと遺言書ができ、それを公正証書として残すことにした。
区から公正証書に関わる人が来て、視力の弱い知人のため、遺言書に書いてあることを弁護士が読み上げた。その遺言書の最後に、「すべての相続が終わったら、弁護士に300万払う」ということが書かれていた。
知人は、小金持ちではあるが、弁護士に300万払うほどの大金持ちではない。耳も遠いこともあり、「あれ?」とは思いつつも、その場はそのまま「お願いします」と言ってしまい、押印し、公正証書は確かなものになった。
その後、やはり納得がいかず司法書士に相談
それから何ヶ月を過ぎて、知人は病状が悪化して入院した。
そして、どうしても気になる公正証書の最後の行を改めてみることにした。司法書士に相談して公正証書を見せてもらい、やはり、そんな約束をしていない(弁護士報酬300万)ことが書かれていた。知人は司法書士のもと、新たな公正証書を作ることにした。
任を受けた司法書士が、弁護士に「公正証書を書き直します。ついては私がその件を受けることになりました」と、電話で言ったら「なんだと・・・」と、汚い言葉で「お前」呼ばわりで司法書士を非難した。
結局遺言書は書き換えられ、本人の満足のいく相続となった。その弁護士は、のちにしおらしく、丁重に知人のお見舞いに来た。遺言書のことは一言も口に出さなかったという。その辺のことを考えると、その弁護士は根っからの悪徳弁護士ではなく、魔が差した末の行いだったと思いたい。
知人にも落ち度はあったが、やはり遺言書は自分で作ることができるうちに書くべき
これは全て実話である。
「弁護士」と聞けば「正義」と思う我々に、また「区」での紹介というお墨付きに、思わぬ落とし穴があることを知ってもらいたい。もちろん、知人にも落ち度はあった。いくらベテランの弁護士が作成したからといって、自分の納得した内容になっているかどうかを見極めなかったからだ。
その場を荒げたくない、もしくは聞き間違いかも、いい人でいたい・・・等の思惑を跳ね除けて、ひと言「もう一度聞かせていただけますか?」と、念を押すべきだった。
だからと言って、遺言書を作るのに、気心のしれた友人知人が同席するのはお互いに気まずいだろう。自分で作る力を持つ内に遺言は書かれるべきかもしれない。毎年書き換える人がいるというが、それもまた選択肢の一つである。