「日本」という国は今では1つの国家ですが、交通インフラや情報の行き来がまだ乏しかった時代には、1つの地方が生活圏、暮らしの範囲として完結していました。
その名残は、方言や郷土料理、伝統建築などにもよく表れているのは、読者のみなさんもご存知のことと思います。
変わったお葬式の3つの風習とは?
同様にお葬式に関しても、このような各地域ごとに独特の風習が存在しています。
しかし意外にも、遠く離れた地域で行われていた風習が、実は同じものであったり、それが今に至るまで現存している例も、数多くあります。
そこで今回は、「こんなことをするのはうちの地方だけでしょ」と思われがちなお葬式における風習が、実は他の地域でも行われていたという例をいくつかご紹介します。
集まるまでに時間がかかるから先に火葬をしてしまう「前火葬・骨葬」
まず全国的にも残存している意外な風習に、「前火葬・骨葬」と呼ばれる風習があります。
これは文字通り、お葬式を行う前に火葬をしてしまうことです。もちろん葬儀に際しては、故人の遺体ではなく、遺骨が代わりに納されています。
この「前火葬・骨葬」の風習は北は東北、南は九州に至るまで、各地に残っています。残存地域に共通する点といえば、海辺の集落、もしくは山間部の集落である、という点です。
すなわち「前火葬」の風習は、交通の便が悪いために、訃報の知らせからお葬式に至るまで、親族等の関係者が集まるまでに時間がかかる地域に特有の風習といえます。確かに湿度の高い盆地や、潮風が絶えず吹く海辺では、遺体の腐敗の心配もあったことでしょう。
現世に戻ってこないようにぐるぐる回して方向感覚をなくす「ひつぎ回し・三度回し」
続いて広く残存している意外な風習には、「ひつぎ回し」や「三度回し」と呼ばれる風習があります。
これも文字通り。遺体の入った柩を縄で引きずったり、親族関係者が担ぐなどする、出棺の際の儀式の一つです。柩を回す目的は、故人が現世に戻ってこないように、柩をぐるぐる回すことで、中の故人の方向感覚をなくすためと考えられています。
この「ひつぎ回し」の風習も茨城や山梨、兵庫、広島、大分を始めとして、特定の地域に限らず、全国的に受け継がれてきています。その1つの原因として、この風習が浄土真宗と深く結びついているためだという説があります。柩を回す行動自体は、傍からすれば突拍子もないことですが、これほどまでに広がっていることには、不思議を感じずにはいられません。
生物を生きたまま逃がすことで故人に功徳を与えようとする「放生」
最後に、これも仏教と深く結びついた風習として、「放生」が挙げられます。
「放生」とは、葬儀の際に、鳩や魚など生きた生物を野や川に放つ風習です。前述の通り、仏教における無用な殺生を忌む信仰を利用して、生物を生きたまま逃がすことで故人に功徳を与え、あの世で徳の高い人間として優遇されることを目的としているようです。この風習も新潟や福井などといった北陸地方中心に、全国的に実施されています。目的からすると、非常に打算的でずる賢い風習にも思われますが、これも親族が旅立つ故人の安寧を思って行う風趣なのでしょう。
最後に・・・
以上、3つの例を挙げて、地域特有と思われがちな全国展開するお葬式風習を取り上げました。
自分が赴いた地域の風習に驚く例は数多くあると思いますが、「まさかこんな風習があるのは私のところだけだろう」という期待が、裏切られることはなかなかないと思います。
しかし裏を返せば、遠く隔たる地域に住む人間でも、故人のために同じようなことを考えて葬儀を行うのだという、ある種の感動にもつながるのではないでしょうか。