現代の葬儀事情や埋葬事情が従来の伝統的な様式から変容しつつあるということは、当コラムにおいてもよく主張されている意見であり、まさしくその通りです。
中でも具体的な変化として「家族葬」という葬儀の小規模化、「自然葬」という墓地や墓石に囚われない新しい形態などが生まれつつあります。
今回は後者の「自然葬」ついて、「自然葬」の意義を最も先鋭化した一つの表出と考えられる「樹木葬」に焦点を絞っていきたいと思います。
樹木葬とは、土にお骨を埋めて墓石代わりに木を植える埋葬形式
そもそも「樹木葬」という聞き慣れない言葉について若干の説明を加えましょう。
簡潔に言うならば、「樹木葬」とは埋葬した土地の上に木を植える埋葬形式のことです。その歴史は意外と古く、1900年前後産業革命を経験して従来のキリスト教的伝統が薄れつつあったドイツにおいて、共同墓地に植林を行う形で見ることができます。
では、「樹木葬」のメリットはなんでしょうか。これについては「なぜ今再び樹木葬が注目されているのか」という疑問と併せて考えなければなりません。
樹木葬が注目される二つの理由
我々が「樹木葬」、さらに拡大して「自然葬」という埋葬形式を選ぶ時、そこには当然従来の形式では満足な埋葬をできないという考えがあります。
具体的にはお墓の後継問題と土地問題の二点です。
前者は核家族化や地方における人口流出を原因として、自分が入ったお墓が何十年後も適切に管理されるという確証が少なくなっています。
後者は主に住宅が密集する都市部において、一人当たりの満足な墓地面積を確保することが難しくなりつつあります。まさに「自然葬」のメリットというのは、これらの問題を解決してくれることにあります。
さらに「樹木葬」のメリットは、加えて都市部における緑化問題を解決に導いてくれる可能性をもっています。しかしあくまでこれは行政上のメリットであり、やはり埋葬される個人にとってのメリットは自然へ還ることではないしょうか。このような視点は遺灰を海にまく「散骨」という埋葬形態と共有することができます。
樹木葬普及を目的とした団体も増加中
日本においても「樹木葬」を広めようという活動は認定NPO法人である「桜葬」が共同墓地推進の方針の中で進めています。
さらにお隣の国韓国では、上述の都市部の土地問題や緑化問題と抱き合わせて政府や自治体が「樹木葬」を推進しつつあります。(韓国における都市部墓地問題についてはこちらをご参照ください)
一方でドイツではこうした「樹木葬」の潮流に乗ろうと樹木葬専門の葬儀サービスを行う企業が2000年に設立されています。
日本では馴染みが無いと思っていたことが実は世界的に認知されていたということです。
都市部で拡がりを見せていくだろう樹木葬
では、今後日本において「樹木葬」の利用は広がるのでしょうか。
これに関して言うならば、「樹木葬」は都市部に限って進展していくでしょう。それは都市と地方の生活環境の違いから生じる限定的な利用増加と考えられます。地方では生活圏内にたくさんの緑が存在し、却って自然に還るという思考は土地愛着の考えと時代をともにして息づいてきました。したがって現代においてわざわざ伝統的な様式を変えてまで「樹木葬」にこだわる必要性が感じられません。
一方で都市部では盛んに公園など緑地の導入が進んではいますが、緑に対して接する機会も少なく、自然に還るという思考を「樹木葬」で以て体現しようという動きが現れると予想されます。また霊園の緑地公園化の流れもこれに与することになるでしょう。
以上、「樹木葬」についてご紹介しましたが、これに限らず埋葬形態が多様化しつつある現代においては、我々がとる選択の意義が大きくなります。自分の死後を考える中でこうした葬儀形態や埋葬形態の選択の問題は避けれは通れない問題となっています。