親が子に対して「勘当だ!」と言って家から追い出す。といったシーンを映画やドラマで見た覚えが有る方は多いのではないだろうか。実社会では理由は様々だが、親子関係が絶縁状態にある方を何人か知っている。その内の一人から絶縁状態にある子について、相続に関する質問を受けた。質問の内容だが、勘当した子には相続権はあるのか、その子以外の子に財産の全てを相続させることが可能なのかということだ。結論としては、相続権はある。相続人の一人のみを除外して相続させることは、遺留分という規定があるので不可能ということだ。今回は、この件について簡単に解説してみよう。
明治には存在した「勘当」だが…
明治時代の民法では勘当という制度が実在した。当時家長の権限は絶大で、家長が勘当すれば法的に有効となり、親子関係を絶縁できたのだ。現代の民法では嫡出否認(夫婦と血縁関係にある実子か否か・民法第772条2項他)について家庭裁判所に申し立てるか、普通養子離縁を申し立て家庭裁判所に認めて貰えない限りは、親子間は絶縁できないことになっている。つまり、実子に対して勘当したと言っても、当該実子には相続権は消滅したことにはならないし、また遺言状により他の相続人に財産の全てを相続させる文言を記載しても、遺留分が消滅していない以上当該文言は無効となってしまう可能性が高い。ただ、遺留分において時効(状況により最長10年)が存在するので注意が必要となる。しかも、前述の場合だと勘当された側が遺留分減殺請求(民法第1028条他)を家庭裁判所に申し立てないと、遺留分を貰えなくなってしまう。
どうしても相続させたくないなら…
どうしても勘当した子に財産を渡したくないとなると、とるべき手段は一つ。それは相続排除(民法第892条)だ。当該規定は非常にハードルが高く、余程のことが無い限り認めて貰えないのが実情だ。認めて貰える内容は、子が親を虐待していた、子が暴力団等に加入し懲役刑を受刑した他限定されている。逆に認めて貰えない内容は、子が親の意に反した結婚や就業をした、家業を継がなかった等が挙げられる。
親子の関係は簡単には絶縁できない
例外はあるが如何なる状況であっても、現代日本では親子関係は簡単には絶縁できないと理解すべきだ。勘当を申し渡しても、法的には何の効力もない。前述の相談を受けた方も絶縁した理由は、子が自分の意に沿わない相手と結婚したことだった。これでは相続排除は不可能と回答すると、日本の法律はおかしいと憤っていたが、これは仕方がない。筆者としては、再度親子間で相続について話し合い、円満解決を目指して欲しいと考えるが、如何だろうか。