フランスでは毎年11月1日は『Toussaint』と呼ばれる祭日だ。フランス語で『Tous(全て)
』と『Saints(聖人たち)』という言葉が由来であり、日本語に直すと『諸聖人の日(しょせいじんのひ)』あるいは『万聖節(ばんせいせつ)』となる。フランスに住む人々には、この日がある頃にお墓参りをする習慣がある。日本でのお盆にも近いこの万聖節について紹介しよう。
フランスの休日『万聖節』って?
万聖節はカトリックの祭日だ。全ての聖人と殉教者を記念し、祈りを捧げる。その歴史は長く、万聖節の習慣自体は5世紀にはもう存在していたそうだ。9世紀以降に今と同じ11月1日を万聖節の日として定めたと考えられている。本来クリスチャンでなければ万聖節に直接の関係はないが、現在のフランスにおいて11月1日は国民の休日扱いで、子供たちの通う学校もお休みだ。ちなみに、2017年現在、フランスにおけるクリスチャンの割合は 統計上では全国民の70%程度だと言われている。
宗教上のこと以外にも、この『万聖節』には特徴がある。万聖節には冬の訪れを告げるという役割があるのだ。フランスにおいて、夏時間から冬時間に移行するのがこの11月1日。この日を境に日が暮れるのが早くなり、中部フランスにおいてはかなり気温も下がってくる。フランスの冬は天気も良くなく暗いことが多い。そのため、観光施設などの冬季休業期もこの万聖節の日から始め、次の春の復活祭までを選んでいるところがよくあるようだ。
翌日11月2日は『死者の日』
全ての聖人に祈りを捧げる万聖節であるが、あまり明るい印象は持たれない。冬の始まりやお天気の悪さ以外にもその理由がある。万聖節の次の日である11月2日には『死者の日』というものが定められているのだ。
同じくカトリックにおいて、11月2日は『Défunts』 すなわち『死者の日』である。この日にフランスの人々は、亡くなった近親者のお墓参りをする習慣がある。この風習は10世紀末にブルゴーニュ地方の修道院の院長が定めたものだ。もともとは亡くなった僧侶のミサをそれぞれの命日ではなく この日にまとめて行うようにしたのが由来で、一般の国民たちもそのようにしたのはその後。ただし11月2日は休日と定められてはいないので、現在では多くの家庭が 休日として定められている前日の万聖節にお墓参りをしているそうだ。
この前後、フランスの多くの学校では秋休み(Vacances de Toussaint)に入る。よって万聖節には帰省して都合のいい日でお墓参り…ということになる。まさに日本でいう お盆やお彼岸にそっくりなイベントだ。なんと万聖節でフランス人たちが供えるお花は菊だという。11月の厳しい寒さで、屋外のお墓に凍らないまま飾れる花が菊くらいしかないのが理由だとか。私たち日本人は菊に「日本的な花」だという印象を持っているが、フランスにおいても欠かせないものであったのだ。
フランスではハロウィンはないの?
冬前という時期、死者の日、などのキーワードを聞いて 私たちが想像するであろうイベントが一つある。そう、10月31日のハロウィンだ。万聖節を国の重要イベントとして定めているフランスでは、ハロウィンは行われないのであろうか?
そもそもハロウィンの語源は Allhallows Eve、つまり、Allhallows(古い英語で『万聖節』の意味)の前夜祭だ。詳しい起源には諸説あるようだが、アイルランド系の風俗が関わっているらしく、したがってハロウィンはアイルランド系移民の多いアメリカやカナダで行われるようになった。つまり、死者の日の当日を重要視しているのがフランスの万聖節、前日を重要視しているのがハロウィンということになる。フランスではハロウィンは祝わない。一部の地方ではジャック・オ・ランタンらしきものを作る風習が存在しているようだが、私たちが想像するような祝われ方はされず、やはり11月1日にお墓参りをする形で伝統が続いている。
時期は違えど 日本のお盆そっくりな風習がフランスにも残っているのは驚きだ。死者に思いを寄せる日があるのはどの国も共通かもしれない。