柿田睦夫氏の著書「悩み解決! これからの「お墓」選び」(新日本出版社、2013)の中に、少し不思議なくだりがある。それは、このようなものである。
『日本には、一二月に行う「骨正月」という風習がありました。墓地に行って墓石をまな板にして餅を切り分けて食べるという風習です。(55p)』
筆者にとっては、初めて聞く話であった。大いに関心が湧き、早速インターネットや本などで「骨正月」について調べてみた。なんと、「骨正月」は季語にまでなっているという。
季語にまでなっている骨正月
しかし季語の「骨正月」とは、主に西日本で一月二十日に行われていた、いわゆる「終い正月」「正月納め」の日に魚の骨まで煮込んだ料理を食べる風習のことであった。しかも、これは亡くなった人や墓とは無関係な行事であった。
つまり季語の「骨正月」は、柿田氏が言っている「骨正月」とは、明らかに別の「骨正月」である。
しかし柿田氏のいう「骨正月」には、実は別の呼び名が存在した。
骨正月と似たような慣習「仏の正月」
柳田国男氏による『葬送習俗事典 葬儀の民俗学手帳』(河出書房新社、2014)には、戦前の四国に残る年末の風習として、「仏の正月」「巳の日正月」「巳午」「辰巳正月」などが紹介されている。
これらの行事は伝わる地域によって呼び名こそ異なるが、内容的には大体共通している。つまり、これらの異なる名で呼ばれる行事は、ほぼ同じ行事だとも言える。
どんな内容なのか簡潔に言うと、墓石をまな板にして餅を切るとは限らないが、柿田氏の伝えた「骨正月」のような内容である。
この「仏の正月」などと呼ばれる行事は、その年に亡くなった人のいる家で行われ、死者と遺族との最後の食事であるとされる。遺族はこれを経ることで、喪に服した状態から「清く人並」の状態になったとされ、新年を迎える。
つまり柿田氏のいう「骨正月」とは、柳田の報告する、「仏の正月」などの名で呼ばれる行事のことだったと、断言してもほぼ差し支えはないであろう。