フィリピンと聞くと、何を想像するだろうか?
マンゴーやバナナなどの農産物、暑い気候と綺麗なビーチを利用した南国リゾート産業、世界的ファストフードチェーン店でも勝てない人気を誇るジョリビーなどなど、どれをとってもフィリピンの代名詞といえるものばかりだ。
しかし、一風変わった葬送文化が存在することを知る人は少ないだろう。
フィリピンのルソン島 サガダで見ることの出来るハンギング・コフィン
それは険しい山々のそびえるルソン島にある村、サガダで見ることが出来る。人口およそ一万人、豊かな自然溢れるこの地では洞窟探検や滝の見学、トレッキングなどの自然観察が人気で、現地住民であるイゴロット族のガイドを雇うことも可能だ。
だがそれだけでこの地の去るのは実にもったいない。この村には他では見ることのできない変わった光景を見ることができる。それが「ハンギング・コフィン」だ。「ハンギング・コフィン」とはその名の通り崖から吊るした棺桶のことである。そのあまりにも異様な光景に誰もが圧倒されるだろう。
観光スポットが多いフィリピンの中でも、サガダは一度は訪れたい場所として推薦されることの多い地域だ。
天に少しでも近づきたいという考えが反映された埋葬方法
「死後は少しでも空に近いところへ」という思いが込められたこの埋葬方法。歴史的にも鳥葬のような遺体を天へ還すといった考えで行われる葬送は多数あり、サガダの人々のような埋葬の仕方も考えとしては理解できる。
この考えに通じる葬送で、最近注目を集めているのが「宇宙葬」だろう。このことからも、天に近付きたいという思いは人々の中に根付いており、それは今も昔も、洋の東西すらも関係なく我々人類にとって普遍的な価値観なのかもしれない。
ハンギング・コフィンが生まれた理由とは?!
さて、このような葬送がなぜこの村では行われるようになったのだろうか。ただ故人の魂を天へ還すことが目的ならばわざわざこのような方法を取らず、山の頂に埋葬するだけで十分だ。その理由を探るため、この地に住む人々やその歴史について少し調べてみた。すると、このような方法を取らざるを得ない事情が見えてきた。
かつて、この地には首狩りを風習とする一族が暮らしていた。今でこそ彼らが首狩りを行うことはなくなったが、当時はまるで勲章でも得るかのように死体から首を取ることが頻繁に行われていたという。それを防ぐため、サガダの人々は遺体の収められた棺を吊るすことにしたのだ。
実に壮絶な歴史である。現代、我々の世界でも事故や事件で身体の一部が失われたまま亡くなる方がいらっしゃるが、そのときの葬式は悲痛だと聞く。ましてやそれが首だったらと考えると――彼らが亡き同胞達の遺体を守るため、天空高くに棺を安置した理由もわかるかもしれない。