「エンバーマー」という職業をご存じだろうか。
エンバーミングという、遺体の防腐処置や復元などを行う仕事である。
タレントの壇蜜さんが「遺体衛生保全士」という民間資格を取得していることがテレビなどで話題になったこともあり、耳にしたことがある方もおられるかもしれない。
欧米では当たり前となっているエンバーミング
日本では、湯灌(ゆかん)という、納棺前に湯水できれいに洗浄する昔ながらの風習がある。生前の悩みや苦しみ、生に対する煩悩を洗い流す儀式とされている。
近年では、看護師がアルコール消毒などの処置を施すことが多くなったので、湯灌を行うことは少なくなった。
一方、西洋ではエンバーミングは一般的に行われている。土葬文化であること、長距離を運搬することもあることなどから発達した技術である。アメリカでのエンバーミング率は90%以上だそうだ。
エンバーミングって何をするの?
少しばかり生々しい話だが、具体的な処置を簡単に説明すると、
(1) 遺体を、消毒液で清拭する。
(2) 皮膚を2cmほど切開する。一般的には鎖骨のあたり。
(3) 動脈から防腐液を注入、静脈から血液を排出する。
(4) 腹部にも穴をあけ、胸腔や腹腔内の残存物も除去し、防腐剤を注入。
(5) 必要ならば、顔や身体の復元処置を行う。
(6) 接合部を縫合し、遺体を洗浄。
(7) 着替え、メイクを施す。
体液を全て防腐液に入れ替えるため、ドライアイスの必要がなく、2週間程度は美しい姿を保つことが可能。飛行機で遺体を海外搬送する場合は、各航空会社がエンバーミングを条件としている。伝染病で亡くなった場合も、体液中の細菌やウイルスは生きているため、エンバーミングの処置が必要となる。
また、防腐液がピンク色なので、顔や体もほんのりと自然な肌色となる。闘病後のやつれた状態などにこのような処置をすることで、遺族の痛みはずいぶんと和らぐことだろう。
申し込み方法は?費用は?
筆者がエンバーミングについて知ったのは、最近のことだ。
以前から知っていたなら、病でなくなった身内にこのような処置を施しても良かったかも、と思う。青白く痩せた顔を思い出すのももちろんだが、火葬までの数日間、ずっとドライアイスに包まれひんやりと冷たい思いをさせたことが、今でもなんとなく悔やまれる。
では、どのように申し込めば良いのか。
生前に本人が直接申し込むか、家族からの申し込みが必要である。資格保有者がいる専門の業者が請け負うため、依頼できるかどうかは葬儀社により異なる。最初に確認が必要だ。
費用は20~30万円程度。日本遺体衛生保全協会(IFSA)というエンバーミング普及のため活動している団体が基本料金を規定しているため、国内のどこに依頼しても費用は大きくは変わらない。
超高齢化社会に伴い、徐々に認知度が高まりつつあるエンバーミング
日本ではまだエンバーミングは一般的ではないが、その認知度は徐々に高まりつつある。
衛生面でも、遺族のささやかな慰みとしても、メリットは大きい。
これからますます需要が増加するだろう。今、「エンバーマー」は、時代が求める職業と言えるのではないだろうか。