最近の手帳は、4月始まりも多い。わたしなどは小さい手帳をメモ代わりにと、ついつい買ってしまうことがよくある。
嫁姑問題と認知症で疲れたと語った先輩
そんな話を勤務先で先日話題にしたところ、ある先輩が、「おれなんかはこれが毎年来るからね」と言って緑色の小ぶりの手帳を上着のポケットから出してきた。裏表紙には「献体手帳」という文字が印刷されている。3年前に、認知症を患い、老人ホームに入居した先輩の母親の献体手帳だそうだ。
最近は経済的事情による献体希望者が増えてきているようで、先輩もそれが理由とのこと。しかし、そういった経済的な理由で献体希望者が増えているため、遺体の引き受け手である大学の解剖教室も登録をお断りすることがあるようだ。
だが、その先輩の場合は、別の事情もからんでいおり、小さい声で「本当に内緒の話だけど、疲れちゃってね。妻も介護でへとへと」と語った。
例によって嫁と姑の関係もあり、もうこれ以上母親にかかわることに我慢が出来なくなってしまったらしい。
経済的な事情以外で献体を希望する理由とは
先輩は話を続けた。
「昔うちの課にいた佐藤君が、親父さんをがんで亡くしたときにおれに、これで『ほっとしましたよ』と話しかけてきたときは、『なんて親不孝なやつだ』と、本気で怒ったことがある。ところが今となっては、佐藤君の気持ちがよくわかるようになった。そこで経済的な事情もあって献体を選んだんだ」。
先輩は、大学によって多少の違いはあるようだが、献体の手続きについてもいろいろ教えてくれた。
(1)献体を希望する理由
(2)配偶者や、親子供兄妹などの親族全員の承諾書
「これをそろえるのが面倒でねえ。普段から小うるさい叔父なんかは、なんで解剖するんだ、とかんかんだよ。母親は承知の通り、全く病気なしの丈夫が取柄でいつもお役にたちたいといっている、と理由でなんとか納得してもらったよ。第一、遺体の引き取りや火葬は大学でやってくれるのだが、結局は、遺骨を引き取るわけで、ここで一席設ける羽目になりそうだよ。」
最後は浮かない顔になった先輩。
先輩の判断が正しいかどうかは分からないが、献体の趣旨や手間をよく考えて選択すべきだと理解せざるを得なかったのは言うまでもない。