「自分の葬式には誰が来てくれるのだろうか」と考えたことはあるだろうか。「らくだの葬礼」という落語話がある。この話は、乱暴で町中の嫌われ者の男、「らくだの馬さん」が死んだところから始まる。
らくだの葬礼のあらすじ
「らくだ」と呼ばれたお馬さんは、図体がでかく大変な乱暴者であったため、町の人皆から嫌われていた。そのらくだがフグの毒にあたって死んでしまった。それを見つけたらくだの兄貴分は、どうにかして葬式をして弔ってやりたいと思うが、如何せんお金が無い。そこに現れたのがお人よしの屑屋。兄貴分は、まずらくだの家財を屑屋に売って弔いの費用に充てようとするが、火鉢は底が壊れている為、持ち上げたら崩れる、土瓶は口が欠けていてうまく注ぐこともできない、と言った具合で一文にもならない。次に兄貴分は屑屋に香典を集めるように言う。言われた通り香典を集めに行った屑屋。らくだは嫌われ者だった為、皆香典を出したくなかったが、兄貴分が恐ろしいのでしぶしぶ香典をいくらか包む。それに味をしめた兄貴分は、今度は屑屋を大家のところに行かせ、酒や飯をせびらせる。「嫌だと言われたら、らくだの死体にかんかんのう(唐人踊りとも言う)を踊らせると言え」と屑屋に言う。屑屋が大家のところに行き、その旨を伝えるも、大家は生前店賃を払わなかったらくだの葬式用の酒を出す義理はないと断る。それを聞き怒った兄貴分は、らくだの遺体を屑屋に背負わせ、踊りを踊らせる。大家はそれを見て恐ろしく思い、流石に酒や飯を用意してやった。同じ手口で八百屋も脅し、菜漬の桶も貰ってきた。そろそろ帰れるかと思った屑屋だが、兄貴分に酒を勧められて付き合いで一緒に飲む。酔って強気になった屑屋の勢いに兄貴分は驚き、立場は逆転。二人はらくだの遺体を火葬場へと運ぶのだが、途中で転んで、らくだの遺体と間違えて、酔って寝転がっていた願人坊主を火屋へと入れてしまう。気が付いた願人坊主「ここはどこだ」「火屋だ」「冷や(冷酒)でもいいからもう一杯」
らくだの由来
ラクダが日本に渡来して来た時に、体ばかり大きくて役に立たない者のことを「ラクダのような奴だ」と言うようになった。図体の大きいお馬さんがらくだと呼ばれたのもそこからだろう。ラクダは、オランダ船で1821年に日本に渡って来た。見せ物小屋で人気となった。馬のような顔姿だが、ゆったりとした動きや、荷物を乗せるにも不便そうな背中のコブなどを見て、当時の日本人は「ラクダはなんの役に立つのだろうか?」と不思議に思ったのだろう。
「らくだの葬礼」での葬儀
この「らくだの葬礼」では、乱暴で恐ろしい嫌われ者のらくだに、香典やお供物を積極的に用意する者は居ない。町の人達は皆らくだが恐ろしく、亡くなったことに安堵する者もいるくらいだ。らくだの死に対して悼む気持ちがあるのは兄貴分のみであり、その兄貴分でさえ、遺体にかんかんのうを踊らせるなどの粗雑な扱いをする。落語という笑い話の中での出来事ではあるが、やはり自身の生前の行いによって、死後の葬儀のありようも変わってくるものだろう。自分の葬儀には誰が来て、どのように行われるのか、葬儀を通して、自己の普段の言動を省みるのも良いかもしれない。
参考資料
■飯田泰子著 『江戸落語事典ー古典落語超入門200席ー』芙蓉書房 2017年12月