厳しい残暑が続いている最中、コロナウイルスについても収束の兆しが見えない。そのような状況にあっても、相続並びに相続税対策について考えなくてはならない人達も一定数存在するものと考える。実は筆者もその内の一人なのだが、コロナウイルスによって死を身近に感じる人が増加した結果なのだろうか、筆者に相続税の相談をする人が増えた。
相続放棄も含めて相続や相続税の相談が増えている
かつて筆者が勤務していた税理士事務所や知人が運営している税理士法人にも相続税の相談件数が数倍にも増加していると聞いている。そして、先日知人から相続放棄(民法第939条他)について相談を受けたのだが、内容は相続放棄を撤回することは可能かということだった。
相続放棄の取消し(撤回)は可能ではあるが非常に難しい
結論から言うと相続放棄の撤回は、不可能ではないが非常に困難であるとなる。相続放棄とは、財産を有する人(被相続人)が亡くなった時点で所有していた財産について、相続する権利を放棄することを言う。手続きについてだが、財産を有する人が亡くなったことを知った日から三ヶ月以内に、家庭裁判所に相続放棄申述書を提出し、それが認められれば完了する。
相続開始時は債務超過・オーバーローンだった
肝心の相談内容だが、知人の実兄A氏が半年程前に交通事故により急逝した。A氏の相続人は配偶者であるB子、子供のC男とD男であった。A氏にはギャンブルに起因する莫大な借金が有るのみで、他に財産が無いものの、いわゆる債務超過・オーバーローン状態であるとされていた。
相続放棄後に生命保険に契約していたことが明らかになった
残された相続人達は配偶者の実父からの勧めで全員相続放棄をし、借金の返済を免れることができたのだった。しかし、数ヶ月経過したある日、遺品整理中に生命保険契約書が発見された。死亡保険金は数億円であり、保険金受取人はB子となっていた。保険金の支払いを受けることができれば、A氏の借金を返済しても半分以上は残る計算となる。
ところが、ここで問題が発覚した。生命保険契約書が発見されたのは、相続放棄をした後であるためB子達は相続人ではなくなっているのだ。そのため、折角の死亡保険金が貰えない、何とかならないのだろうかとのことだった。筆者としては、相続放棄後に生命保険契約書が発見されたことについて、錯誤(正確には要素の錯誤)があったとして相続放棄の取り消しを申し立てることができるかもしれないと伝えると同時に弁護士を紹介した。
錯誤が認められ相続放棄は取消し・撤回となった
結果は、錯誤が認められ相続放棄は取り消され死亡保険金はB子に支払われ、法定相続分により分割。借金も全額返済でき、相続税も問題無く納付されたのだが、担当した弁護士曰く、非常に困難な案件であったとのこと。昭和四十年頃の判例にあるが、認められることは非常に稀であったそうだ。B子に法的知識が皆無であり、日頃A氏のギャンブル癖と借金に頭を抱えていたB子にとって、A氏が生命保険契約を締結していたこと自体知らなかったことを主張していたことが効いたとも言っていた。
常に財産や借金の把握をしておくのがベスト
相続放棄の取り消し自体が稀ではあるが、家族同士で財産と借金の有無は確認しておけば、ある程度防げた問題であろうかとも考えるが、相続もプラスの財産だけでなく、借金即ちマイナスの財産も相続することを忘れないで欲しい。そうすれば、いざというとき慌てないで済むのではないだろうか。