筆者は北海道出身なのだが、道内の葬儀に初めて参列した友人達は口々にこう言う。「受付で領収書お出ししますか?って言われたよ、びっくりした。」実は日本の数ある葬儀の習慣の中でも北海道だけと言われているのがこの「香典の領収書発行」である。実は日本の数ある葬儀の習慣の中でも北海道だけと言われているのがこの「香典の領収書発行」である。
香典額を確認するため、受け付けで開封される
領収書を希望すると受付の人がカッターなどで香典を開封するが、道外の人はいきなりそんなことをされるとビックリしてしまうだろう。
驚きはまだこれからだ。領収書なのだから金額を記入しないとならない為、目の前で開封した香典の金額を確認され、場合により受付で「○○さん5000円—。」という声が飛ぶ事もあるそうだ。
香典領収書の背景
発行される領収書なのだが、一般的な但し書きのある領収書ではなくお供物料や喪主の欄がある香典専用の領収書がしっかりと存在する。この事からも領収書習慣が北海道に根ざしている事が窺える。
これは開拓の時代に道外各地から集まって来た人々が地域社会を形成しているという北海道特有のものもあり、合理主義精神に富んだ道民性が葬儀の場でも「香典領収書」という形で現れたのかもしれない。香典返し一つにとっても合理的な部分が窺える。
一般的に香典返しは頂いた額の何割かを返金する事が多いが、北海道では海苔やハンカチ等の会葬返礼品のみというのが多いパターンだ。香典額の管理等手間を省くという点でも合理的なのかもしれない。
新生活運動に見る香典と返礼品
もともと合理的な考えを持つ北海道民だが、独特の葬儀文化が広まったのは太平洋戦争後の1950年代に日本各地で起こった「新生活運動」が影響したと言われている。
新生活運動とは、終戦後の混乱した時期に荒廃した日本の復興の為に生活や社会を合理化して町村を再建することを目的に始まった国民運動であるが、全国各地で青年団体などが劣悪になっていた環境衛生、因習の打破等に取り組んでいった。
当時の総理大臣、鳩山一郎がこれらの運動を積極支援した事により1956年には活動の主体として財団法人新生活運動協会が設立され、それにより当時経済的に疲弊した社会情勢を背景として虚礼廃止に努めるというのも運動の大きな柱になっていった。
経済的な負担の大きい香典や香典返しといった儀礼も改革すべし虚礼と考えられ「香典の額は少なくして香典返しは辞退する」という運動が全国的に広まっていった。これらの運動が特に深く浸透したのが北海道であると言われ、昨今の香典領収書や返礼品に見られる風習も当時の運動を色濃く残した風習だ。
最後に…
道民は合理的じゃなくケチなんじゃないかと突っ込まれた事があるが、倹約という事とは少し違うのではないかと思う。ただそもそもしきたりや風習はどれが善くてどれが悪いというものでもないのだから地方の多様性があって面白いのだと私は考える。
余談だが、返礼品でもらうと嬉しいものを身内に聞いてみるとやはりダントツで食品という声が多かった。