お彼岸に近くの和菓子屋さんにお仏壇に差し上げる牡丹餅を買いに行った時の事です。店員さんに頼んでふと見ると、横に綺麗な菊の花をかたどり積み重ねたお菓子がありました。『打ち菓子』と書いてあります。「これはいつもあるのですか?」と聞くと「いえ、お彼岸とお盆だけです」との返事でした。
『打ち菓子』とは米粉など穀類の粉に砂糖や水飴などを加え、木型に詰め乾かして打ち出した干菓子で“落雁„や‟塩釜„などの総称です。
落雁の名前の由来は?
落雁はよくお茶の席で出されるため、ついついお薄茶点前のお菓子だと思っていました。しかしお葬式の祭壇によくこのような菊の花の落雁が積まれていたのをその時ハッと思い出しました。落雁は仏事用の大切なお菓子でもあるのです。
落雁という名前の由来は二つあります。一つは近江八景の「堅田の落雁」にちなんで名づけられたという説。もう一つは中国の軟楽甘というお菓子の名前の‟軟“が抜けてしまったという説です。中国ではクルミやゴマを入れてある、良く似たお菓子が今もあるそうです。
落雁の伝来時期や流行した要因は?
もともとこのお菓子は西~中央アジアにあったお菓子が中国に伝わり、それが室町時代に日本に伝わったのだといわれています。ちょうどそのころは茶道が盛んになったころと重なり、お茶菓子として重宝されました。
特に落雁の材料の一つ、米粉を蒸して干した糒(ほしい)は当時の戦の時の携帯食の一つであったため、特に武家階級に好まれ、江戸時代には加賀藩や松江藩が茶の湯とともに奨励したほどでした。つまり米やクリなどのでんぷん質を砂糖や水飴で練ったこのお菓子は、おいしく栄養価の高い大変貴重なものだったのです。
美味しく貴重なものはまず仏様、お仏壇にお供えをしていた日本人
おいしく貴重なものはまず仏様へ、当時の日本人たちはそう考えたのでしょう。その上型に入れて固めるためどのような形にすることもできます。菊や蓮の花をかたどった落雁はお供えに最適だったに違いありません。その上日持ちするのでお盆などの暑い時でも安心してお下がりをいただくことができます。
そう、昔の日本人は仏壇にいったんお供えした落雁を「お下がり」として喜んで食べていたのです。現在マーケットなどに売られているお供え用の落雁はどうなっているのでしょうか?現在パソコンで検索すると落雁の再利用レシピが載っています。そのまま捨てられてしまうものも多いのかもしれません。また落雁に似せてビニールで包んだお砂糖をお供え用に売っているとも聞きます。でもちょっと侘しいですね。飽食日本にはあの大きさは持て余すのかもしれません。今度のお盆にはおいしい落
雁を少しだけお供えし、仏様と一緒にいただきたいと思います。