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知人の訃報に「出来ることは絵で弔うことしかない」と話す横尾忠則

自分が年を取ったと実感するのは、どんな時だろうか。

気力や体力の衰え、記憶力が落ちたこと、今まで似合っていたはずの服が全く似合わなくなったこと、いつ見ても若々しく元気に見えた芸能人の大病や死にまつわるニュースなどなど。

そして、それらに増して、最も意気消沈するのが、学生時代の同級生の訃報を聞き知ったときではないだろうか。

知人の訃報に「出来ることは絵で弔うことしかない」と話す横尾忠則

ありとあらゆる角度から「死」をテーマに活動してきた横尾忠則

美術家の横尾忠則は、時代の顔となった1960年代後半から今日に至るまで、さまざまな角度から「死」をテーマに描いてきた。「死」と言えば、絶望、沈鬱、悲惨、禍々しさ…など、絶対行きたくない「場所」とイメージされているにも関わらず、彼の作品の場合は、全くそうではない。

「特定の様式を持つことがそれほど意味のあるものとも、重要だとも思っていない…むしろ特定の様式を持つことの方が不自然ではないかと思う。なぜなら創作は気分を最も重視すべきだと思う」(1993年)。

このように本人が語っているように、作品には、テーマやスタイルの一貫性がない。あたかも「知らない人が見ればグループ展かと思う」ほど、多種多様な世界を描き出している。たとえ描かれているテーマが「死」であっても、一度見たら決して忘れない、赤・青・金色などの極彩色に彩られた鮮烈かつ大胆、そして思わず笑ってしまうような面白さにあふれつつも、どこか郷愁を誘うものばかりなのだ。

以前は「死」に対して、「恐怖」のイメージが強かった横尾忠則

横尾が62歳になったときに著した『死の向こうへ Beyond Death』(1998年)の「まえがき」ではこのように記されていた。

「最近とみにぼくの周辺の親しい人たちが次々と他界されていくのを見ていると、本当に死が他人事ではなくなってきた…ぼくは若い頃から死に対する関心が強かったが、最近のようなリアリティはなかった。こうも次々と知人が亡くなっていくと、どうしても残された時間のことを考えてしまう…そして死を前提とした人生観を持たなければならないとも思う」

このような横尾にとって、かつて「死」は恐怖だった。恐怖だったからこそ、研究してみようと思ったという。特に、1970(昭和45)年11月25日に起きた、横尾と親交が深く、作品になしたこともある三島由紀夫の切腹事件は、彼に大きなインパクトを与えた。

インドから帰ってきた横尾忠則は「死」についての自らの考えを改めた

芸術家の性である先鋭な直感によって、横尾には、幼少期から、シンクロニシティ、予知夢や白日夢、「霊」を見たり感じたりする経験が多々あった。それゆえ1970年代の横尾は、「死」を含めたさまざまな神秘主義、パラダイス、ユートピア、千年王国、シャンバラ、UFO、宇宙、天使、ヨガ、座禅、無意識、夢…などを探求し、それらを作品の中に描き出していた。

また、切腹自殺直前の三島から勧められていたこともあり、横尾は1974(昭和49)年に、インドに旅立つこととなった。現地に降り立つまで、横尾が抱いていた「インド」のイメージは、ビートルズの影響から、物質文明に穢された日本や西欧諸国とは異なる、「聖地」「浄土」だった。

しかし横尾が目にした「インド」は、貧困と死が隣り合っている「現実」があった。横尾にとっては、見たくないものを無理やり見せられている格好だった。インドの旅において横尾は、訪問前の自分が日本で考え、作品にそれを活かし、「死をできるだけ自分の内部に取り込もう」としていたのは、観念的な作業でしかなく、実は「死」という現実を避けて生きてきたことだった、と初めて気づかされたのだ。インドへの旅を通して横尾は、「人間は本当に死ぬ存在である」、そして「自分の死」も、リアリティをもって考えるようになったという。

インドだけでなく生まれ故郷の兵庫県西脇市からも何かを学んだ横尾忠則

インドから戻った横尾は、自身が敬愛する小説家の柴田錬三郎、『週刊新潮』の表紙で知られる画家の谷内六郎を失うこととなる。しかし横尾は、ただ単に彼らの死を嘆いたり、悲しんだり、または懐かしんだりするのではなく、死の垣根を超えて、彼らと一緒にいるように実感するという。最終的に横尾は、肉体の消滅が自我の消滅ではない。生の中に死があり、死の中に生が見えてくると、他人や世界も見えてくるという死生観を持つに至る。

このような横尾は、自身の生まれ故郷である兵庫県の西脇に「出会う」。インド旅行前の1970年と73(昭和48)年に、写真家の篠山紀信とともにふるさとを訪ねた。そこで横尾は、恩師の先生と会ったり、かつての同級生と一緒に、地域の人々にはなじみ深い、加古川の鉄橋の下にある河原で記念撮影をしたり、子ども時代に通った駄菓子屋に行ったりしたという。そのときは、懐かしさはあるものの、ある意味横尾にとっては「仕事」が主だった。しかし1984(昭和59)年に、横尾の作品を展示する西脇市岡ノ山(おかのやま)美術館が開館する。それを契機に、横尾は頻繁に故郷を訪ねることとなった。横尾が48歳になったときだった。

同級生の死をきっかけにレクイエムを描いた横尾忠則

同級生の死をきっかけにレクイエムを描いた横尾忠則

あるとき横尾は、亡くなった同級生が多いことに気づき、「レクイエム」を描こうと思い立った。1970年の訪問の際、篠山紀信が撮影した同級生との記念写真を元にして、『記憶の鎮魂歌』(1994年)を完成させた。赤い川、そして昭和の映画の「天然色」を思わせる「明るさ」でほほ笑む人々のそばに、小さなモノクロームの、さながら中学校・高校の卒業写真を切り抜いたような、小ぶりな人々の顔が同級生のそば、空中を漂っている。中央下の、他のものと比べて少し大きめの少年の顔は、高校時代の横尾忠則そっくりだ。それがまた、いい感じに「抜けて」いて、「青春時代のなつかしい日々」などと、ステレオタイプの「感動」や「美化」、更には「クサみ」を排す役割を果たしてもいる。横尾はこの他にも、『友の不在を思う』(2003年)、『鎮魂歌』(2012年)など、同級生のレクイエムを描き続けている。




横尾としては、自分が描く世界に「子供の頃からつながってきている反近代的な趣味性」があることを意識した上で、そういう見方に溺れること、そしてノスタルジックになることは避けたいという気持ちを持っている。つまり、子供の頃に思ったことを絵に描くのではなくて、この今という瞬間に自分が思っていることを作品にする。しかも「考える」のではなく、「思う」、「感じる」。「考える」とどうしても、作品が一旦言語化されたものになってしまう。しかし「思う」「感じる」こととは、言語化することを拒否することでもある。それゆえ横尾は、「思う」「感じる」ことを大切にしたいと心に決めているのだ。

横尾忠則にとって、西脇市での幼いころの思い出は、とても楽しく充実していた。

横尾にとってのふるさとの日々は、とても楽しく、充実したものだった。例えば高校時代に「郵便友の会」を作って切手を収集する楽しさを満喫していた。そんな中、ハリウッド女優のエリザベス・テイラーに手紙を書いたところ、本人から返事が来て、地元の新聞に掲載されたりもした。しかも、高校の学園祭のポスターをデザインしたり、兵庫県主催の絵画展で何度も受賞したこともある。

「みっともないことや恥ずかしいことがまったくなかったわけではありません」(2016年)とはいえ、鬱屈した青春時代を送っていたわけではなかった。小学校の通信簿には「他人にちょっかいを出す」「飽きっぽい」「幼児語が抜けない」など、「ダメな生徒」ぶりが記述されていたというが、横尾の場合、自身のマイナス部分を先生から指摘されていたこと、そしてその指摘によって自分が傷ついたり、不快な思いを抱いたことを引きずることはなく、自分を含めた「過去」すべてを肯定的に捉える性格だったために、「幸せ」が結果的に引き寄せられていたようだ。

しかも彼が育った西脇は1960年代まで繊維業が栄え、「土日などに外に出るのが楽しみ」なほど、活気に満ちた「場所」だった。そのため横尾は、養父母の元で育てられていたにもかかわらず、自然な形で伸びやかな性格が形成されたとも考えられる。

しかし次第に廃れていった西脇市からあるヒントを得た横尾忠則

しかし次第に廃れていった西脇市からあるヒントを得た横尾忠則

しかし、彼が西脇に戻った当時、地域を支えた繊維業は衰退し、かつて人で賑わっていた商店街は、シャッターが下ろされ、とても寂しいところになっていた。それを目にした横尾は、少年時代の西脇を理想化し、寂れた西脇は自分のふるさとではないと考えていた。そんな折、横尾は、日本中のどこにでもある、しかし、「ここ」にしかない「Y字路」に偶然出会う。そこで、「これはこれでいいじゃないか」「西脇はY字路の宝庫だ」と、「今」の西脇を肯定することができたという。写真を撮り、Y字路の絵を描く中、横尾が持っていた過去の「西脇」への執着が消えていった。

そして横尾は同級生に対して、「みんなへの執着を捨てたわけではない。同級生が生きている限り、ここがぼくの故郷なんだ」と語り、今まで以上の結束が固まったと語っていた。ノスタルジー、すなわち、自分が作り上げた理想郷としてのふるさとを捨てた横尾だからこそ、同級生へのレクイエムを込めた絵の数々が、横尾をめぐる「内々の人」にしか共感できないものではなく、西脇以外の土地で過ごし、横尾とは異なった時代や人生を生きた人々にとっても、普遍的な感動を呼び起こす作品を完成させることができたのである。

最後に…

かつての同級生の死に接した際、横尾のようにレクイエムを込めた絵を描くことはできなくても、横尾が三島由紀夫らと共にいるように感じるときのように、我々も、自分にとって大切な人を失った後、「生」と「死」の垣根を超えて、「今」、「ここ」に一緒にいるような「温かみ」を感じることができるのではないか。夢を見たことがある、ふっと気配を感じたことがある…そういう体験をした人も多いだろう。それもまた、亡くなった人たちへの「供養」である。

更に、逆に自分が亡くなってしまったとき、自分を知る誰かが自分のことを思い出して悲しむばかりではなく、自分がその人のそばにいると「感じて」くれていることを想像してみることで、「死」への恐怖や忌避意識がなくなるように思われる。生きている幸せばかりではなく、死んでいる幸せもあるのだ。従って、横尾のレクイエムの絵は、様々な発想の転換を我々にもたらしてくれると言えよう。

参考文献:ARTのパワースポット、 横尾少年 横尾忠則昭和少年時代、 死の向こうへ、 岡本太郎と横尾忠則、 死なないつもり

ライター

鳥飼かおる(掲載日:2017/03/06 最終更新日:2021/09/16)

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