あなたは「ぼたもち」と「おはぎ」の違いを聞かれて何と答えるだろうか。
恐らく多くの方が「春のお彼岸はぼたもち、秋のお彼岸はおはぎ」と、季節によって呼び名が違うとお答えになるだろう。
あるいは、ご飯の周りのあんこが粒あんかこしあんか、またあんこかきな粉かによって呼び分けるという習慣の方もいる。
では、「おはぎの『はぎ』って何ですか?」と聞かれたらどうだろうか。
今回は、このおはぎの「はぎ」について調べてみた。
ぼたもちとおはぎの違いは?
「ぼたもち」と「おはぎ」の違いについては諸説ある。
その中で恐らく最も良く言われているのは「季節(春の彼岸・秋の彼岸)によって呼び名が異なる」という説だろう。
この場合、ぼたもちには春の花である「ボタン(牡丹)」、おはぎには同じように秋の花のである「ハギ(萩)」があてがわれる。
萩は山上憶良の歌にあるように、オミナエシ、ススキ、キキョウ、フジバカマ、クズ、ナデシコと共に秋の七草に数えられる。
さらに、萩の花は邪気を払うとされ、お盆の時期に仏花として用いられたり、十五夜に栗や団子のお供え物とされてきた。
しかし、日本に自生する植物の中に「はぎ」と名のつくものはいくつもあり、
同じ行事でも地域によって全く異なる花を用いている場合もある。
以下は、お盆やお彼岸などに用いられる「ハギ」と名のつく植物の一例である。
ヤマハギ ミソハギ メドハギについて
■ヤマハギ
マメ科ハギ属の落葉低木。
7月から10月頃にかけて薄い赤紫色の蝶に良く似た形の花をつけ、秋の七草に数えられる。
数多くの和歌や文芸作品に見られ、また絵画などの題材とされるなど、日本人に古くから親しまれてきた植物である。
邪気を払うともいわれ、仏花として供えられたり、宮中では年中行事などに萩の箸を用いていた。
また、お盆の時期に咲く事からお盆の盆棚(精霊棚)のお供え物にヤマハギの茎を「精霊箸」として沿えたり、「みそはぎ」に本種を用いる地域もある。
■ミソハギ
ミソハギ科の多年草。
お盆の時期に花びらが6枚の小さな花を房状に密集して咲かせる。
別名をボンバナ、ショウリョウバナ、ともいい、仏花としてよく用いられる。
漢字では「禊萩」と書き、元の名である「ミソギハギ」が転じて「ミソハギ」と呼ばれるようになったといわれている。
お盆の時期に用いられる「みそはぎ」は本種であり、先祖が里帰りする事から悪霊が寄りつかないように墓に供えられたり、ミソハギに着いた花の露を先祖の飲み物、または手や足を洗い浄めるものとして盆棚に供えられる。
■メドハギ
マメ科ハギ属の多年草。
細長い茎に紫の紋ある薄黄色の花をびっしりと咲かせ、花の形はヤマハギに良く似ているがヤマハギが樹木に数えられるのに対し、
メドハギは雑草として扱われる事が多い。
沖縄ではお盆の際にメドハギの茎で「ソーローバシ(精霊箸)」を作り、お供えの膳に沿える習慣がある。
さらに、葉のついた茎を束ねて水に浸け、お盆に帰ってきた先祖が足を洗う箒として玄関に置かれる。
古くは「筮萩(メドギハギ)」と呼ばれ、占いの筮竹(ぜいちく)の代わりに用いられたのが名前の由来である。
おはぎの「はぎ」は花。しかし、ぼたもちの「ぼた」は……?
秋のお彼岸に作られる「おはぎ」は、粒あんのつぶつぶした小豆を小さな花が密集して咲くヤマハギの花に見立てたものといわれ、春のお彼岸に作られる「ぼたもち」はこしあんに包まれた丸い形がボタンの花びらに似せた物とされる。
しかし、ぼたもちの名称については「ぼたっとした感じがするから」などとする説や、古い時代に仏教と共に伝来した外国語に由来するという説も存在する。
さらに、最近では用いられなくなってしまったが、ぼたもち・おはぎにはなんと、夏には「夜船」冬には「北窓」という名称が存在する。
もち米のご飯をあんこで包んだシンプルな食べ物だが、そこにまつわる文化的背景には複雑かつ大変深いものがあるのだ。